会社を設立するときや、増資(資本金を増やす)をするとき、出資は「お金(金銭)」で行うのが一般的です。しかし、中にはパソコンや車、不動産、特許権といった「モノ」で出資する「現物出資」という方法もあります。この現物出資を行う際に、避けて通れないのが「検査役」という存在です。「検査役って何をする人?」 「必ず裁判所に選んでもらわないといけないの?」今回は、現物出資における検査役の役割から、多くの企業が活用している「検査役が不要になる例外ケース」、具体的な手続きの流れ、さらには注意すべき落とし穴まで徹底解説します。そもそも現物出資の「検査役」とは?現物出資の「検査役」とは、出資される財産(モノ)の価値が、本当に申請された金額通り正当なものかどうかを調査するために、裁判所から選任される専門家(弁護士や公認会計士など)のことです。なぜ検査役が必要なのか?お金であれば「100万円は100万円」と一目で価値が分かります。しかし、例えば「1台のクラシックカーを300万円として現物出資する」となった場合、本当に300万円の価値があるかどうかは専門家が見ないと分かりません。もし、実際には10万円の価値しかない車を「300万円」として出資することを認めてしまうと、会社の実態以上の資本金が計上されることになり、会社の債権者や他の株主が大きな不利益を被ってしまいます。これを防ぐために、第三者である検査役の調査が必要とされているのです。⚠️ 検査役の選任には大きなデメリットも… 検査役を裁判所に選任してもらうと、数十万円〜100万円以上の高額な費用(報酬)がかかる上、調査完了までに数ヶ月単位の時間がかかってしまいます。そのため、実務では次に紹介する「不要なケース」に当てはめて、検査役を回避するのが一般的です。【重要】検査役の調査が「不要」になる3つの例外ケース会社法では、手続きをスムーズにするため、一定の条件を満たせば検査役の調査が免除(不要)になるルールが設けられています。現在、中小企業やスタートアップの現物出資のほとんどが、このいずれかの例外を活用しています。ケース1:現物出資の総額が「500万円以下」の場合出資される現物出資財産の価額の総額が「500万円以下」であれば、財産の種類を問わず、検査役の調査は一切不要です。ポイント: 個人で使っていたパソコン数台、社用車1台など、小規模な現物出資であれば、この枠内に収まるため最もよく使われる免除規定です。ケース2:市場価格のある有価証券で、その相場以下の場合出資する財産が「上場企業の株式」や「国債」など、客観的な市場価格(取引所の相場)がある有価証券の場合です。その市場価格を超えない価額で出資するのであれば、価値をごまかす余地がないため、検査役の調査は不要となります。ケース3:弁護士・公認会計士などの「証明」を受けた場合現物出資の総額が500万円を超える場合でも、その価額が相当であることについて、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家から「価額の相当性に関する証明」を受ければ、検査役の調査は不要になります。不動産を出資する場合: 不動産を現物出資する場合は、上記に加えてさらに「不動産鑑定士の鑑定評価」も必要になります。現物出資する私物の金額(時価)はどう決める?金額を決めるときは、新品で買ったときの値段(定価)ではなく、「出資する時点の『時価(今売ったらいくらになるか)』」をベースに決めるのが鉄則です。具体的には以下の方法で割り出します。中古市場の相場を参考にする(パソコン・家具など) 出資したいモノと同じ型番や状態のものが、現在いくらで取引されているかを調べます(中古ショップの販売価格や、ネットオークションの落札相場など)。実務では、その画面を印刷して価格の根拠として保管しておきます。減価償却後の書類上の価値を参考にする(車・機材など) 個人事業主から法人化(法人成り)する場合、確定申告の書類に載っている、その時点の「未償却残高(帳簿上の価値)」をそのまま出資金額とします。税金上の計算に基づいているため、非常に確実な根拠になります。❌ 高すぎる金額をつけるのは絶対NG! 本当は5万円の価値しかないパソコンを「50万円」として出資し、後から「価値が全然足りない」と発覚した場合、出資した本人が足りない分の45万円を、後から現金で会社に支払わなければならない法律のルール(填補責任:てんぽせきにん)があります。必ず客観的な金額を設定しましょう。現物出資の手続きの流れ(検査役が不要な場合)ここでは、最も実務で多い「500万円以下」などの理由で検査役が不要となった場合の、一般的な増資(募集株式の発行)における手続きの流れを解説します。STEP 1:発起人会・株主総会での決議 「誰が」「何を(どの財産を)」「いくらとして出資し」「何株を割り当てるか」を議事録に残します。STEP 2:現物出資財産の引渡し 出資者は、出資するモノを会社に引き渡します。車であれば名義変更書類の受渡し、パソコンであれば現物の引渡しを行います。STEP 3:給付があったことを証する書面の作成 会社の代表取締役が、「確かに現物出資の財産をすべて受け取りました」という「財産引継書」などの補足書類を作成します。STEP 4:管轄の法務局へ登記申請(増資登記) 出資(給付)が完了した日から2週間以内に、資本金の額の変更登記を申請します。手続き(類型)としては「増資(募集株式の発行による変更登記)」となります。登記の申請方法を選ぶときの注意点現物出資による増資登記を行う場合、申請書類の作成方法には注意が必要です。オンライン書類作成サービスを利用する場合の注意点近年、画面の指示に従って入力するだけで法務局提出用の書類が作れる便利なオンラインサービス(GVA 法人登記など)がありますが、利用時には注意が必要です。⚠️ GVA 法人登記は「現物出資」による手続きには対応していません。 メニューにある「増資(募集株式の発行)」で対応しているのは、お金を会社に振り込む「金銭出資」のみとなりますのでご注意ください。現物出資は「500万円以下」に抑えて計画的に現物出資における検査役について解説しました。検査役は、出資されるモノの価値を厳しくチェックする専門家まともに依頼すると、多額の費用と数ヶ月の時間がかかってしまう「500万円以下」に抑えることで、検査役の調査は不要になる現物出資の登記はオンラインサービス(GVA 法人登記など)が使えないため、自作か司法書士への依頼が必要手元の現金を減らさずに会社の資本金や信用を増やせる便利な現物出資ですが、金額の根拠づくりや登記の手続きは少し特殊です。まずは「500万円以下」に収まる私物からスタートし、書類作成に不安がある場合は事前に司法書士などの専門家へ相談しながら進めましょう。