代表取締役が転居により住所変更する場合には、変更後2週間以内に登記申請をしなければなりません。期限が定められている重要な手続きですが、登記申請の経験が少ない方の中には「手続きが複雑そう」「専門家に依頼すべきか」などと考えている方も多いのではないでしょうか。本記事では、必要書類や具体的な申請方法、費用、関連する手続きまで、実務的な視点でわかりやすく解説します。代表取締役の住所変更とは?代表取締役等の住所変更とは、法人の代表者の転居などに伴って住所を変更することを指します。法人形態によって対象となる代表者は異なり、株式会社・有限会社の場合は代表取締役、合同会社の場合は代表社員が代表者に該当します。これらの代表者の住所は登記事項証明書に記載される重要な情報で、住所に変更が生じた場合は、変更があった日から2週間以内に登記申請を行う必要があります。なお、会社形態によって登記される住所の範囲は異なります。有限会社の場合は代表取締役だけでなく、代表権を持たない取締役や監査役の住所も登記事項証明書に記載されます。また、合同会社の場合は代表社員の住所が記載対象となります。本記事では、最も一般的な法人形態である株式会社のケースを対象に住所変更登記の手続きについて解説していきます。代表取締役の住所変更登記の手続き代表取締役の住所変更登記の申請方法と、それに伴うさまざまな手続きについてまとめます。手続きのポイントを押さえておけば、申請手続きをスムーズに行えます。登記申請書を作成して提出する代表取締役の住所変更登記に必要な書類は、基本的に登記申請書のみです。株主総会や取締役会での決議、取締役の決定などは不要であり、議事録等の添付も必要ありません。そのため、法人の変更登記の中では比較的手続きがシンプルで、自分でも申請しやすい手続きといえます。ただし、司法書士などの代理人に依頼する場合は、委任状が必要になります。申請方法には、書面での申請とオンライン申請の2つの方法があります。書面で申請する場合は、会社の本店所在地を管轄する法務局に、収入印紙を貼付した登記申請書を提出します。郵送での申請も可能です。一方、オンライン申請は、パソコンでの利用環境等(申請ソフトのインストールや電子証明書など)を準備してから始める必要があります。事前準備に多少時間はかかりますが、2回目以降は比較的容易に申請することができるというメリットがあります。なお、この登記申請は、住所変更があった日から2週間以内に行う必要があります。登記申請書の具体的な書き方や記載例については、後ほど詳しく説明します。代表取締役の住所変更登記を自分で申請するのにかかる費用住所変更登記を行う際に必ずかかるのが登録免許税です。これは会社の資本金額によって金額が異なり、資本金1億円未満の場合は1万円、1億円以上の場合は3万円となります。登録免許税は収入印紙で納付します。登録免許税の他に、書類作成や申請代行を専門家に依頼する場合はそのための報酬が必要になります。これらは自分で書類を作成する場合はかかりません。ただし、申請方法に応じて法務局への郵送費用や交通費などの実費が必要となります。なお、この登記申請は住所変更に伴う手続きの一つに過ぎず、他にも法人関連や個人関連の各種手続きが必要になりますので、それらの費用についても考慮に入れておく必要があります。この点については、次の章で解説します。住所変更に伴う登記以外の手続き代表取締役の住所変更登記自体は比較的シンプルな手続きですが、住所変更に付随して発生する手続きが多いため注意が必要です。主な手続きを以下の表にまとめました。【官公庁への手続き】提出先概要都道府県税事務所・法人事業税、法人住民税関連の異動届出書税務署・法人税、消費税関連の異動届出書市区町村・住民税関連の異動届出書年金事務所・健康保険・厚生年金保険被保険者住所変更届・国民年金第3号被保険者住所変更届【金融機関への手続き】種類概要銀行関係・法人口座、個人口座の住所変更・連帯保証人としての変更手続き・保証協会への手続き(利用している場合)保険関係・生命保険、損害保険、医療保険の住所変更(法人・個人)その他契約・証券会社、リース会社、クレジットカード会社、信販会社、不動産会社などへの届出【その他の個人の手続き】種類概要身分証関係・運転免許証、マイナンバーカード、パスポートの住所変更・健康保険証の住所変更その他・郵便局への転送届これらの手続きは、それぞれ提出期限や必要書類が異なります。特に官公庁への手続きは法定期限があるものが多いため、計画的に進めることが重要です。また、業種や契約状況によって必要な手続きが追加される場合もありますので、漏れがないよう注意深く確認しましょう。住所非表示措置の有無に関わらず変更したら登記が必要令和6年(2024年)10月から、株式会社を対象とした代表取締役等の住所非表示措置が開始されています。この制度では、登記申請時に申出を行い、必要な申出や書類提出により、登記事項証明書内の住所表示の一部を非公開にすることができます。この新制度の開始により、「住所が非表示になるのだから、住所変更時の登記自体が不要なのではないか」と勘違いしてしまうケースが想定されます。しかし、住所非表示措置の有無に関わらず、代表取締役の住所に変更があった場合は、必ず変更登記を行う必要があります。なお、この住所非表示措置は、「設立の登記」や「代表取締役等の就任の登記」、「代表取締役等の住所移転による変更の登記」などの場合のみ申請が可能であり、非表示にすることのみを単独で申し出ることはできません。そのため、住所非表示を希望する場合は、住所変更登記と同時に行いましょう。代表取締役等の住所非表示措置について、詳しくは以下の記事もご参考ください。参考リンク:【令和6年10月開始】代表取締役等の住所非表示措置の申出方法・必要書類を解説代表取締役の住所変更登記の必要書類とテンプレート(ひな形)実際の申請に必要な書類のひな形と記載方法を具体的に解説します。代表取締役の住所変更登記の必要書類代表取締役の住所変更登記に必要な書類は非常にシンプルです。基本となる必要書類は以下の通りです。登記申請書登録免許税の収入印紙を貼付した台紙なお、住所変更の登記申請ですが、住民票などの住所を証明する書類の添付は不要です。ただし、正確な住所を登記簿に記載するため、住民票を参考にして申請書を作成することをお勧めします。また、司法書士などの代理人に依頼して申請する場合は、委任状の提出も必要になります。代表取締役の住所変更の登記申請書類テンプレート(ひな形)以下の画像はテンプレート(ひな形)のサンプルです。法務局のホームページからPDF、Wordなど各ファイル形式でダウンロードできます。※出典:商業・法人登記の申請書様式:法務局住所を変更する場合、記載例を参考にしながら、変更登記申請書を作成します。各項目の記載方法については以下を参考にしてください。商号(会社名):「株式会社」を省略せず、登記されている正式な商号を記載本店:会社法人登記されている本店所在地を、住居表示または地番まで省略せずに記載登記の事由:「代表取締役の住所変更」と簡潔に記載登記すべき事項:住所変更の日付(令和●年●月●日 地番変更)と新住所を住民票の表記に合わせて正確に記載登録免許税:資本金1億円未満の場合は1万円、1億円以上は3万円の収入印紙を台紙に貼付添付書類:非課税証明書1通と記載(該当する場合)申請日:実際に申請する年月日を記載申請人:会社の商号・本店所在地、代表取締役の氏名・新住所を記載し、代表取締役印を押印提出先:本店所在地を管轄する法務局名を記載書き方がわからなかったり、迷ったりした場合は、管轄の法務局に問い合わせて確認し、正確に記載することが大切です。どうしてもわからなかったり、手間や時間をかけたくないという場合は司法書士など専門家へ相談するのも有用です。住所変更登記はシンプルだが、さまざまな届出が必要代表取締役の住所変更登記は、登記申請書と収入印紙を用意すれば申請できる、比較的シンプルな手続きで自分で行うことも十分可能です。ただし、住所変更に伴って必要となる手続きは、この登記だけではありません。税務署や年金事務所などの行政機関への届出、取引先金融機関や保険会社への変更手続き、さらには運転免許証やマイナンバーカードなどの個人の身分証明書の変更まで必要になることに注意しながら計画的に進めましょう。関連する手続き代表の住所を本店住所に登記している場合は本店移転も必要代表取締役の自宅を会社の本店所在地として登記しているケースは、特に創業間もない企業などでよく見られます。このような場合、代表取締役が転居すると、それに伴って会社の本店所在地も変更となります。つまり代表取締役の住所変更登記だけでなく、本店所在地の変更登記(本店移転登記)も必要になりますので、忘れずに手続きするようにしましょう。