会社を設立後、成長過程で発生する「役員を増やしたい」「新しい事業を始めたい」「オフィスを移転したい」といった変更においては「定款変更」という手続や登記変更が必要になる場合があります。ただし、創業間もない経営者の方にとって「定款変更」という手続には馴染みがなく不安に感じることもあるかもしれません。本記事では、どのような場合に定款変更が必要になるのか、必要な手続や登記申請について解説します。GVA法律事務所では、企業法務に関する最新の情報や実務に役立つオンラインセミナーを開催しています。最新の法律トピックに関する記事、セミナー情報を受信できますので、ぜひメールマガジンにご登録ください。登録フォームはこちら株式会社の定款変更とは?定款とは、会社の組織や運営に関する根本的なルールを定めた書類です。会社設立時に必ず作成し、公証役場で認証を受ける必要があります。この定款に記載されたルールに基づいて、会社は日々の活動を行うことになります。定款には、主に以下の3種類の事項が記載されています。絶対的記載事項必ず記載しなければならない事項です。これがないと定款そのものが成立しません。例:商号、事業目的、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額(資本金額)など相対的記載事項記載がなくても定款の効力に影響はないが、記載しなければその効力が認められない事項です。例:株式の譲渡制限に関する規定、単元株式、役員の任期の伸長任意的記載事項法令に違反しない範囲で、会社が任意に定めることができる事項です。例:事業年度(決算期)、役員の員数、株主総会の議長、役員報酬の決め方、公告方法など会社を設立した時点では完璧だと思われた定款も、会社の成長や経営環境の変化によって、見直しが必要になる時が来ます。例えば、新規事業への進出、資金調達のための増資、オフィスの移転などがその対象です。会社の現状に合わせて定款の内容を変更することを「定款変更」と呼びます。定款は会社の根幹をなすルールであるため、社長や役員の判断で勝手に変更はできず、原則として、会社の最高意思決定機関である「株主総会」での決議が必要となります。さらに、変更した内容が登記事項(法務局に登録されている会社情報)に関わる場合は、法務局への「変更登記申請」も必要になるのです。定款変更が必要なケースでは、具体的にどのような場合に定款変更が必要になるのでしょうか。定款変更が必要となるケースを、「登記申請が必要なもの」と「登記申請が不要なもの」に分けて解説します。登記申請が必要な定款変更の例商号(会社名)の変更社名変更です。事業内容の変更に合わせてイメージを一新したい、より覚えやすい名前にするなどの理由があります。事業目的の変更創業時には想定していなかった新しい事業を始める際や、融資や許認可のために、事業内容を追加・変更する場合の登記です。例えば、システム開発の会社が新たにコンサルティング事業を始める場合、「経営コンサルティング業務」といった目的を追加します。本店所在地の変更事業規模の拡大などに伴いオフィスを移転する場合です。移転先が現在の法務局の管轄内か管轄外かによって、定款変更の要不要や登録免許税の額が変わります。発行可能株式総数の変更増資による資金調達などにおいて、定款で定められた発行可能株式総数の上限を超える新株は発行できません。そのため、事前にこの枠を広げておく必要があります。公告方法の変更会社の重要な決定事項を知らせる「公告」の方法を変更する場合です。任意的記載事項であるため、定款に定めがないと「官報に掲載する方法」なりますが、利便性向上のために「電子公告(自社ウェブサイトに掲載する方法)」に変更するケースもあります。機関設計の変更(取締役会や監査役の設置・廃止など)会社の成長に合わせて、経営の意思決定プロセスや監視体制を変更する場合です。例えば、「取締役会」を設置したり、逆に意思決定のスピードを上げるために取締役会を廃止したりするケースなどが該当します。株式の譲渡制限に関する規定の変更会社の株式を、経営陣が意図しない第三者に譲渡されることを防ぐためのルールです。例えば、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する」といった規定です。この内容を変更・追加・削除する場合に手続が必要です。登記申請が不要な定款変更(株主総会決議のみで完了)以下のケースは、定款に定めがある場合、その内容を変更するために株主総会の決議が必要ですが、登記事項ではないため、法務局への登記申請は不要です。事業年度(決算期)の変更会社の繁忙期と決算・申告時期が重なるのを避けるためや、親会社の決算期に合わせる目的で事業年度の末日(決算月)を変更するケースです。なお、法務局への登記は不要ですが、税務署や都道府県税事務所などへの届出が別途必要になります。定時株主総会の招集時期の変更「毎事業年度の末日から3ヶ月以内に招集する」などと定めている招集時期を変更する場合です。ただし、会社法では3ヶ月以内と定められているため、その範囲内での変更となります。役員報酬の決定方法の変更定款で役員報酬の上限額を定めている場合に、その金額を変更する場合などが該当します。代表取締役の選定方法の変更例えば、設立当初は「代表取締役は株主総会で選定する」と定めていたものを、取締役会を設置したことに伴い「代表取締役は取締役会の決議で選定する」と変更するようなケースです。(この場合、別途取締役会設置の登記も必要)役員の任期の変更取締役の任期は通常2年ですが、非公開会社では、定款で役員(取締役・監査役)の任期を最長10年まで伸長できます。この任期も定款の記載事項です。定款変更の手続①株主総会の決議定款変更を行うための最初のステップは、会社の最高意思決定機関である株主総会での決議です。定款変更の決議では、原則として「特別決議」という、通常より厳格な要件を満たす必要があります。決議の種類と要件特別決議定款変更を行う際の原則的な決議方法です。議決権を⾏使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。普通決議役員の選任や報酬決定など、一般的な事項を決議する方法です。定款変更そのものではありませんが、関連手続として必要になることがあります。議決権を⾏使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要です。スタートアップや中小企業の多くは、経営者自身が100%の株式を保有しているか、身内や少数の協力者のみが株主であるケースが多いため、株主の合意形成は比較的容易かもしれません。その場合も手続きを省略することはできず、法的な要件に従って株主総会を開催し、株主総会議事録を作成します。定款変更の手続②登記申請株主総会で定款変更の決議後、その変更内容が登記事項に該当する場合は、変更の効力が発生した日(通常は株主総会決議の日)から2週間以内に法務局へ変更登記を申請する義務があります。定款変更としてよくある「事業目的の変更」を例に、登記申請に必要な書類を解説します。目的変更の登記申請の必要書類株式会社変更登記申請書申請自体の書類です。「登記の事由」として「目的の変更」、「登記すべき事項」として変更後の新しい事業目的などを記載します。法務局のウェブサイトにテンプレートや記載例があります。株主総会議事録目的変更が株主総会の特別決議によって正しく承認されたことを証明する書類です。株主リスト株主総会での決議内容の正当性を担保するため、決議時点での株主の氏名、住所、株式数、議決権数などを記載した書類です。委任状司法書士などの代理人に登記申請を依頼する場合に必要です。これらの書類一式を、会社の本店所在地を管轄する法務局に提出して申請します。申請が反映されると、登記事項証明書に変更内容が記載されます。目的変更の登記申請方法については以下の記事も参考にしてください。参考リンク:定款の目的の変更登記を自分で申請する方法・必要書類 必要な手続がわからない場合は専門家に相談もここまで具体的な例で解説しましたが、ひとことで「定款変更」といっても様々な手続が該当します。「自社のこのケースは、どの決議や登記が必要なのか」「手順や書類作成はこれで合っているのか」など、疑問や不安が出てくるかもしれません。定款変更は、会社の根幹に関わる重要な法的手続です。書類の不備で申請がやり直しになったり、気づかずに法的な要件を満たさないまま経営を続けてしまったりするリスクもゼロではありません。不安な場合は、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談・依頼も検討しましょう。確実な手続の実現や本来注力すべき事業経営に集中することができます。