企業経営に関わっている人の中には、「減資」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。一方で、減資とは具体的にどのようなものなのか、企業経営にどのような効果があるのか、必要な手続きは何か、などの疑問を持たれている方もいるかと思います。本記事では、減資の概要とそのメリット・デメリット、手続きの流れ、必要となる書類、費用などについて解説していきます。GVA法律事務所では、企業法務に関する最新の情報や実務に役立つオンラインセミナーを開催しています。最新の法律トピックに関する記事、セミナー情報を受信できますので、ぜひメールマガジンにご登録ください。登録フォームはこちら減資とは?会社設立や増資の際に払い込まれた資金を「資本金」と呼び、この資本金を減少させる手続きを「減資」と呼びます。資本金を減らす手続き減資とは資本金を減少させることを指します。2006年の会社法施行により最低資本金制度が撤廃されたことで、会社の規模や減資する額の大小に関わらず、定められた手続きを行えば減資を行うことが可能になりました。資本金は、一般的には金額が多いほど資金力があり、倒産リスクが低く信用力が高いと見なされます。しかしながら、ケースによっては資本金を減らすメリットもあるため、例えばコロナ禍などの経済環境が不安定となった時期には大企業でも減資を行う企業が増加しました。有償減資と無償減資減資には有償減資と無償減資の2種類があります。有償減資は、現預金の減少を伴う減資であり、主に株主への配当金の支払いなどを目的として実施されます。資本金を減少させることで生じたその他資本剰余金を原資に「株主への払い戻し」を行うため、実際に資金が減少するものです。一方で、無償減資は現預金の減少を伴わない減資です。これは後述する財務体質の改善や節税などを目的として実施されます。資本金を減少させて剰余金に振り替える、といった会計・税務上の処理のため、実際に資金が社外に流出することはありません。本記事では主にこの無償減資を対象に解説します。減資をする目的・理由無償減資を行う主な目的・理由としては、①欠損補填をするため、②税務上の優遇を受けるためなどが挙げられます。欠損補填とは赤字が続くことで利益剰余金がマイナスとなっている場合に、減資により資本金から振り替えたその他資本剰余金を利益剰余金のマイナスに充当することです。例えば、資本金が3億円、利益剰余金が1億5,000万円のマイナスの場合、資本金を3億円から1億円へ減資した上で、増加したその他資本剰余金2億円を利益剰余金に充当することで、利益剰余金は5,000万円のプラスとなります。また、税務上の優遇については、資本金の額により様々なものがあります。代表的なものは、法人住民税の均等割の税額が少なくなること、資本金が1億円以下の場合に法人税における軽減税率の適用、欠損金の繰り戻し還付、法人事業税における外形標準課税の免除などが挙げられます。減資には株主総会の決議や登記申請が必要減資を行うためには株主総会での特別決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の2/3以上の賛成)が必要となります。例外的に、定時株主総会での決議、かつ、減資をする額が定時株主総会時における欠損の額を超えないケースでは普通決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の1/2以上の賛成)となります。また、減資をする額が株式の発行と同時に行われ、かつ、効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らない場合には、取締役会の決議(取締役会非設置会社においては、取締役の過半数)にて決議できます。また、株主総会の決議に加えて、債権者保護のために官報での公告と債権者への個別の催告を行い、債権者が異議を述べられる期間を1か月以上設けることが必要となります。これは、債権者にとっては不利益になる可能性があるためです。ただし、定款で電子公告や日刊新聞などの官報以外の公告方法を定める場合、官報での公告とあわせて、電子公告や日刊新聞などへも公告を掲載することで(ダブル公告)、債権者への個別の催告を省略することが可能です。さらに、減資は資本金が減少する手続きのため、減資の効力発生日から2週間以内に登記申請が必要となります。減資のメリット・デメリット減資を行うメリット・デメリットについて、無償減資を前提に解説します。減資のメリット減資を行うメリットとして、欠損補填により利益剰余金が増加することで、金融機関から資金を調達しやすくなることが挙げられます。利益剰余金がマイナスということは、過去に大きな赤字を計上したか赤字が継続していることを意味し、金融機関から融資などの審査を受ける上で不利になります。そのため、減資を行い、利益剰余金をプラスにすることで融資などを受けやすくすることができます。また、減資を行うメリットに、税制上の優遇措置を受けられることが挙げられます。例えば、外形標準課税は、報酬総額、単年度損益など客観的に判断できる要素により税額が決まる法人税ですが、資本金が1億円以下の場合は免除されます。なお、令和6年度税制改正による適用対象法人の見直しにより、減資によって資本金が1億円以下になった場合でも、資本金と資本剰余金の合計が10億円を超えるなどの場合においては、外形標準課税の対象となる予定です(令和7年4月から)減資のデメリット減資を行うデメリットとして、資本金が減少することに伴う信用力の低下が挙げられます。具体的には、資本金が少ないことにより、金融機関の融資などの審査において調達できる金額が少なくなる可能性があります。新たに取引を開始するための与信審査においても、特に大企業との取引においては資本金の大小がポイントとなることがあるため、不利になる可能性があります。また、減資は手続きが複雑であり、時間とコストもかかることが挙げられます。減資と同じく資本金の額が変更となる増資においては、債権者保護の手続きがありませんが、先に解説した通り、減資は債権者にとって不利となる可能性があるため、公告や催告が必要となります。減資の手続き・必要書類減資をするために必要な手続きの流れと用意すべき書類について、具体的に説明します。株主総会の決議先に解説した通り、減資を行うためには原則として株主総会での特別決議が必要となります。決議する事項は、①減資する額、②減資する額の全部又は一部を資本準備金とするときは、その旨及びその額、③減資の効力発生日、になります。また、上記の通り、一定の条件を満たしたケースでは普通決議で足りる場合などがあります。なお、株主総会の招集は取締役会(取締役会非設置会社においては、取締役の過半数)で決議を行います。債権者保護手続き株主総会の決議の加えて、債権者保護のための手続きが必要となります。具体的には、官報での公告、知られている債権者への個別催告を行います。掲載する事項は、①減資の内容、②一定の期間内に異議を述べられる旨、③最終事業年度の貸借対照表の開示場所です。なお、電子公告や日刊紙への掲載を公告方法として定めている場合は、官報での公告とあわせて、これらの方法で公告することで債権者への個別催告を省略することができます。また、債権者が異議を述べられる期間は1か月以上設けることが法律で定められています。登記申請の必要書類とひな形減資の変更登記の申請には、以下の書類が必要となります。①変更登記申請書変更登記を行うための申請書であり、商号、本店所在地、登記の事由、登記すべき事項(変更後の資本金の額、原因年月日(効力発生日))、添付書類などを記載します。②株主総会議事録(株主総会で減資を決議した場合)株主総会で決議された事項を記載した書類です。③株主リスト株主の氏名又は名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合を証する書類です。④一定の欠損の額が存在することを証する書面(定時株主総会での普通決議による場合)一定の欠損額が存在し、減少する資本金の額が当該欠損額を超えないことを証明する書類です。必要に応じて、会社の実情に合わせた内容で作成します。⑤公告及び催告をしたことを証する書面官報掲載紙の写し、催告書の控え1通に催告債権者名簿を綴じたものなどです。⑥異議を述べた債権者に対し、弁済もしくは担保を供し若しくは信託したこと又は資本の減少をしてもその者を害するおそれがないことを証する書面(異議を述べた債権者がいる場合)債権者の異議申立書及び弁済金受領証書、担保提供書、信託証書などです。⑦委任状登記申請の手続きを弁護士や司法書士などの法律の専門家に委任する場合は委任状が必要となります。変更登記に必要な申請書と添付資料などは、自分で作成して申請することもできます。以下の法務局のHPからひな形をダウンロードすることができます。参考リンク:資本金の額の減少 記載例(PDF)、申請書様式(Word)債権者の異議がある場合債権者から異議申立てがあるときは、弁済をするか、相当の担保を提供するか、または信託会社などに相当の財産を信託する必要があります。ただし、この弁済などは、債権者を害するおそれがないときは必要ありません。減資の効力は、株主総会で定めた効力発生日にその効力が生じますが、効力発生日までに債権者保護手続きが終わっていない場合は、減資の効力は生じません。減資の登記手続きにかかる費用弁護士や司法書士など法律の専門家に依頼をする場合の書類作成や申請の代理にかかる費用、登録免許税などについて説明します。書類作成減資の登記申請書や必要書類の作成を専門家に依頼するのにかかる費用です。書類作成のみを依頼することは少なく、申請まで代行してもらうのが一般的です。なお、自分で登記に必要な書類を作成し、登記申請を行う場合は書類作成の費用はかかりません。報酬額は依頼先や依頼内容によっても異なりますので問い合わせて確認することをおすすめします。登録免許税減資の登録免許税は、減少する資本金の額に関わらず3万円です。納付方法は、①収入印紙を登記申請書に貼付、②銀行に納付し、領収証書を登記申請書に貼付、③オンライン申請の場合は電子納付を行う、などがあります。その他の費用その他の主な費用としては官報公告の掲載料があります。これは掲載する行数などで決まりますが、減資と決算公告を同時に行う場合は15万円程度になることが多いようです。また、その他に登記申請をするための郵送費や交通費、登記後の謄本取得費用などがかかります。減資の手続き・登記申請は複雑なので専門家のアドバイスも検討これまで説明してきた通り、減資には様々なメリットがあります。一方で、増資などと比較して、債権者保護などの手続きが複雑になっており、手間が多くかかります。自分で登記申請手続きまでを行うことも不可能ではありませんが、調査や書類作成、登記申請など作業に予想以上に時間がかかってしまうことも想定されます。減資を行うことのメリットとデメリット、手続きなどを十分に理解した上で慎重に進めることが重要であり、弁護士や司法書士、税理士など法律面・税務面で専門家のアドバイスを受けながら手続きすることも有効です。※なお、本Webサイトで紹介しているGVA 法人登記では減資の登記書類作成には対応しておりませんのでご注意ください。GVA法律事務所は、主にITベンチャー・スタートアップ企業の創業からIPOまでの支援を行っています。アジアを中心に4か国の拠点も展開しており、グローバルなサービスも展開しています。また、Fintech、メディカル、AI・データ、Web3、宇宙など産業別のチームも組成しており、幅広い業種に対応した法務サービスも提供しています。各種法律相談について新規の方であれば、初回30分無料で法律相談を実施しております。お気軽にお問い合わせください。