企業活動において、事業拡大やオフィス環境の改善などを目的として、本店を移転するケースは少なくありません。ただし、個人の引っ越しと異なり、会社の本店移転では、法律に基づき、本店移転登記を行う必要があります。この登記手続きは、司法書士に依頼することもできますが、実は自分で行うことも可能です。この記事では、本店移転登記の概要から手続きの流れ、費用、必要書類などを解説し、さらに、ご自身で手続きを行う際の注意点やポイントについてもご紹介します。本店移転の登記とは?まずは、本店移転自体、およびその登記申請についてどんな手続きなのか解説します。本店移転とは?株式会社などの法人が、その主たる事務所である本店を別の場所に移転することを指します。法人の本店所在地は、会社設立時に登記されることとなっており、この登記された住所を変更するという手続きが「本店移転の登記」となります。なお、定款にも本店所在地について記載されておりますが、一般的には最小行政区である市区町村まで記載されていることが多く、この市区町村が変更となる移転の場合には、定款の変更手続きも必要となります。個人の引っ越しとは異なり、本店の移転は会社の重要な決定事項です。そのため、取締役会や株主総会といった機関で、移転に関する決議を行う必要があります。移転の時期や新しい本店所在地など、重要な事項を決定し、正式な手続きを経て移転を進めることになります。そして、実際の移転作業が完了したら、速やかに登記されている住所を変更しなければなりません。法律で定められた期間内に法務局へ登記申請を行う必要があり、この期限は、移転日から2週間以内と定められていますので、注意が必要です。本店移転登記を自分で申請することは可能本店移転登記の申請方法には、大きく分けて2つの選択肢があります。1つは、司法書士や弁護士など専門家に依頼する方法です。専門家に依頼することで、自分の労力を使うことなく書類作成や法務局への提出などを代行してもらえます。もう1つは、自分で申請を行う方法です。本店移転登記は、法人の変更登記の中でも比較的シンプルな手続きであるため、必要な書類をご自身で作成し、法務局へ提出することが十分可能です。法務局のホームページには、申請に必要な書類の書式や記入例などが掲載されていますので、それらを参考にすれば、スムーズに手続きを進めることができます。管轄内・管轄外で手続きや費用が異なる本店移転登記の手続きは、移転先が現在の本店所在地と同じ法務局の管轄内であるか、管轄外であるかによって、必要となる書類や手続きが異なります。管轄法務局を越えて本店を移転する場合、管轄外移転となります。例えば、東京都新宿区にある会社が新宿区内で移転するのであれば管轄内移転ですが、新宿区から渋谷区へ移転する場合は管轄外移転となります。管轄外移転の場合、登録免許税が管轄内移転の2倍になるなど、費用面でも違いが生じます。また、提出する書類内容も異なるため、事前に必要な手続きをよく確認しておくことが重要です。株式会社の本店移転登記の流れ本店移転登記を行うには、どのような手続きが必要なのでしょうか?ここでは、株式会社における手続きの流れを、2つのステップに分けて解説します。大きく2つのステップに分かれる株式会社が本店を移転する場合、手続きは大きく分けて以下の2つのステップで進められます。社内(取締役会や株主総会)での本店移転に関する決議・議事録作成本店移転後2週間以内に、書類を作成して法務局に登記申請①社内(取締役会や株主総会)での本店移転に関する決議・議事録作成本店移転を行うには、まず社内で正式な決議を行う必要があります。この決議は、取締役会(取締役会非設置会社の場合は取締役決定)のみで良い場合と、株主総会の決議も必要な場合があります。定款の記載パターンごとの手続き住所の記載必要な手続き東京都新宿区最小行政区画(市区町村)までしか記載していない場合、新宿区内での移転であれば、定款変更は不要。渋谷区など管轄外に移転する場合には、定款変更が必要東京都新宿区○○1-1-1など住所をすべて記載している場合は、管轄内の移転でも、定款変更が必要例えば、定款に本店所在地を「東京都新宿区」のように最小行政区画(市区町村)までしか記載していない場合、新宿区内での移転であれば取締役会決議(取締役会非設置会社の場合は取締役決定)のみで済みます。しかし、区外へ移転する場合は、定款を変更するための株主総会の決議も必要となりますので、ご注意ください。また、定款に具体的な住所(「東京都新宿区○○1-1-1」など)を直接記載している場合は、管轄内であっても定款の変更となるので株主総会の決議が必要となります。いずれの場合も、決議した内容は議事録として作成し、保管しておく必要があります。また、議事録は、会社の意思決定を記録する重要な書類であると同時に、登記申請の際に必要な添付書類となります。②登記申請書類を作成して法務局に提出する社内での決議が完了したら、登記申請書を作成し、議事録や株主リストなど必要書類を添付して、法務局へ提出します。提出方法は、直接持参する方法と、郵送で申請する方法などがあります。管轄外移転の場合は、旧管轄法務局と新管轄法務局の両方の申請書作成が必要となります。しかし、手続きとしては旧管轄法務局にのみ申請すればよく、新管轄法務局への書類送付は代行してもらえます(経由同時申請)。登記申請書の作成は、初めての方にとっては難しいと感じるかもしれません。しかし、法務局のホームページなどで登記申請書のひな形(テンプレート)や記入例が公開されていますので、それらを参考にすれば、スムーズに作成できます。※本記事の後半で紹介します。本店移転登記にかかる費用本店移転登記にかかる費用は、以下の3つで構成されますので、総額としていくら必要かを事前に把握しておきましょう。登記申請書類・必要書類の準備にかかる費用登記申請に必要な書類は、自分で準備することも、司法書士等の専門家に作成を依頼することもできます。自分で準備する場合、法務局のホームページに掲載されている書式や記入例などを活用すれば、書類作成費用はかかりません。インターネット上には、本店移転登記に関する情報提供サイトも多数存在しますので、それらを参考にしながら書類を作成することも可能です。一方、司法書士等に書類作成を依頼する場合は、専門家による確実な手続きのサポートを受けることができます。ただし、その分報酬支払いが発生します。以下で紹介するアンケートによると本店移転の場合、3万円から6万円程度が相場ですが依頼する司法書士事務所や、手続きの内容によって費用は変動しますので、事前に見積りを比較することが大切です。参考リンク:日本司法書士会連合会「司法書士の報酬(報酬アンケート結果)」登録免許税登録免許税は、登記申請を行う際に必ず納付しなければならない税金です。司法書士に依頼する場合でも、ご自身で申請する場合でも、この料金は必ず発生します。管轄内への移転の場合は3万円、管轄外への移転の場合は6万円となり、収入印紙を登記申請書に貼付して納付します。その他の雑費上記2つの費用の他に、わずかながら雑費が発生します。例えば、登記申請書類を郵送で提出する場合には、郵送料として数百円程度が必要です。また、法務局へ直接持参して提出する場合には、交通費などの費用がかかることがあります。これらの費用を考慮し、自分で手続きを行うか、司法書士等に依頼するかを判断しましょう。いずれの場合も、事前に必要な費用をしっかりと把握しておくことが、スムーズな手続きにつながります。本店移転登記の必要書類・ひな形(テンプレート)登記を申請する際には、所定の必要書類を法務局に提出しなければなりません。ここでは、管轄内・管轄外それぞれのケースにおける必要書類と、申請書のひな形(テンプレート)について解説します。本店移転登記の必要書類本店移転登記に必要な書類は、管轄内移転と管轄外移転で異なります。これらの書類は、正確かつ漏れなく準備することが重要です。書類に不備があると、登記申請が受理されない場合がありますので、ご注意ください。管轄内・管轄外それぞれで必要になる書類管轄内管轄外必要書類概要◯◯新旧分本店移転登記申請書法務局へ提出する登記申請書で、収入印紙(登録免許税)の貼付が必要△△株主総会議事録定款変更を伴う場合に必要。本店移転を決議した際の議事録△△株主リスト定款変更を伴う場合に必要。会社の株主の氏名や住所、保有株式数などを記載したリスト◯◯取締役会議事録取締役会を設置していない場合は、取締役決定書を添付△△新旧分委任状司法書士など代理人に登記手続きを依頼する場合に必要-◯印鑑届書新しい管轄法務局に、会社の印鑑を届け出るための書類※◯(必須)、△(状況により必要)本店移転の登記申請書のひな形(テンプレート)法務局のホームページでは、本店移転登記申請書の書式と記入例をPDF形式で提供しています。これらの資料をダウンロードして、参考にすれば、申請書をスムーズに作成できます。本店移転登記申請書のサンプル参考リンク:法務局 本店移転登記申請書(管轄内移転)「申請書様式」「記載例」、参考リンク:法務局 本店移転登記申請書(管轄外移転)「申請書様式」「記載例」本店移転登記は自分で申請することは可能だが注意も必要この記事では、本店移転登記について、概要から手続きの流れ、費用、必要書類までを解説しました。本店移転登記は、会社の住所変更を公的に記録するための重要な手続きです。移転を検討する際は、管轄内・管轄外を問わず、2週間以内に手続きを完了させる必要があることを覚えておきましょう。自分で手続きを行う場合は、法務局のホームページなどを活用し、必要書類を正確に作成しましょう。また、管轄外移転の場合には、登録免許税が2倍になるなど、費用面の違いにも注意が必要です。この記事が、本店移転登記をスムーズに行うための一助となれば幸いです。