事業を成長させるうえで、資金繰りや財務基盤の強化は避けて通れない課題です。一般的な資金調達はもちろんですが、財務上の資本金を増やすという方法もあります。本記事では、追加の資金調達を必要とせず、債務を資本に変えることで財務の健全化を図る「債務の株式化(DES)」に焦点を当て、中小企業やスタートアップにおける活用方法、具体的な手続きの流れや必要書類を解説します。GVA 法人登記のクーポン付メルマガを購読登記申請のタイミングは忘れた頃にやってくるものです。GVA 法人登記のメルマガでは、毎号割引クーポンを配布しております。登録フォームからぜひご購読ください。債務の株式化(DES)とは?それでは、最初に債務の株式化(DES)とは何か、その仕組みや活用法、手続き、留意点等について見ていきましょう。株式会社における増資方法の一つ通常の増資では、新たに資金を調達するために株式を発行し、投資家から現金を受け取ります。一方、債務の株式化(DES)とは、企業が抱える債務(借金)を株式に転換することにより、債務を削減し、財務体質の改善を図る手法で、Debt Equity Swap(デット・エクイティ・スワップ = DES)とも呼ばれます。借金を株式に交換してもらうことで、企業の債務負担を軽減し、資本を強化する方法です。これにより、返済義務が株式に置き換わるため、キャッシュフローの改善やバランスシートの健全化が期待できます。このような特徴から、中小企業ではDESを活用するケースが多く見られます。創業者が個人的な資産を会社に貸し付けている場合などは、貸付金を株式に転換することで財務諸表が大きく改善する場合があります。また、親族や関連会社からの貸し付けを株式に転換することで、関係者の企業へのコミットメントを強化し、中長期的な成長の基盤を得ることも可能になります。このような理由から、中小企業やスタートアップ企業では、金融機関からの借入金だけでなく、社長や役員、親族、関連会社などからの借入金を株式化するDESが多く利用されています。また、大企業や上場企業でも、企業再生の一環としてDESが実施されることがあります。 経営不振や市場環境の変化によって資金繰りが悪化した際、債務の一部を株式に転換することで財務負担を軽減し、経営の安定化を図ります。特に、銀行や機関投資家などの債権者は、企業の業績回復による株価上昇を期待し、株式化に応じるケースがあります。増資の一種であり登記申請が必要DESは、実際の資金調達ではないものの、新株発行と同様の手続きが求められます。これは、DESによって新たな株式が発行され、資本構成が変化することで会社の財務状況に影響を与えるためです。そのため、株主総会の決議(場合によっては取締役会決議も必要)を経て、法務局への登記申請が必要となります。また、企業の財務情報を迅速に公示し、取引先や金融機関などの利害関係者に正確な情報を提供するために、DESの効力発生日から2週間以内に登記を申請する必要があります。会社法や商業登記法に基づく手続きを行うことで、資本変更が法的に認められ、対外的な信用力の向上につながります。登記申請書には株主総会議事録や会計帳簿などの必要書類を添付し、適切な手続きを踏むことが重要です。債務者(増資する側)からみたDESのメリット・デメリットDESは企業の財務健全性を向上させる有効な手法の一つですが、DESを検討する際には、メリットとデメリットを慎重に検討することが重要です。メリットキャッシュフローの改善借入金の返済が不要になり、手元資金を成長投資や運転資金に回せるため、資金繰りが安定します。財務体質の強化負債が純資産に転換されることで自己資本比率が向上し、企業の財務健全性が高まります。これにより、金融機関や取引先からの信用力が増し、資金調達がしやすくなる可能性があります。利息負担の削減借入金が株式化されることで、利払いの義務がなくなり、固定費を削減できるため、収益改善に寄与します。パートナーシップの強化債権者が株主となることで、企業の成長に対する協力や支援を受けやすくなります。特に、主要な取引先や金融機関が株主になることで、安定した関係を築ける可能性があります。デメリット意思決定への影響新たな株主の増加により、経営方針の調整が必要となる場合があります。新たに株式を取得する債権者が経営に関与することで、意思決定が複雑化する可能性があります。リターンへの期待債権者は金利収入と元本回収が担保された債権を株式に転換するため、それに見合うリターンを期待します。債権を株式化した株主はこれまでよりも高いキャピタルゲインや配当を要望する場合があります。課税への影響債務が減少することで、法人税の課税額に影響が出る可能性があります。 例えば、債務免除益として認識されると、課税対象となる可能性があり、税負担が発生することになります。また、DESによる増資後の資本金額によっては、税負担が増える可能性があります。 例えば、資本金が1億円を超えると、中小企業向けの各種税制優遇(法人税の軽減税率や交際費の損金算入枠の拡大など)が適用されなくなります。加えて、資本金の増加に伴い、登録免許税や事業税などが影響を受けるため、これらのコストを考慮する必要があります。債務の株式化(DES)の流れDESの手続きは会社法や商業登記法の法的なプロセスに基づいて進める必要があり、正確な理解と丁寧な準備が不可欠です。ここではDESの具体的な進め方と留意点についてみていきましょう。募集事項の決定・通知〜株主総会決議DESを実施する際には、まず、企業と債権者が債務の対象額や増資額を協議し、発行する株式の条件を決定します。その後、必要に応じて取締役会で決議を行い、債権者と合意形成を図ります。合意が成立したら、株主へ招集通知を送付し、株主総会を開催します。DESの実施には、原則として出席株主の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成による特別決議が必要です。株主総会による承認後、債務者は債権者に特別決議の内容を通知します。その後、債権者は引受予定の株式数を明記した申込書を提出し、企業の債務を株式へ転換します。企業と債権者の協議により合意形成を図り、発行株式の条件を策定株主総会を開催し、出席株主の3分の2以上の賛成(特別決議)を得る債務者は債権者に特別決議の内容を通知債権者は引受予定の株式数を明記した申込書を提出し、債務を株式へ転換DESを進める場合、合意形成が大切なポイントとなります。株主総会や取締役会の意思決定内容は議事録として保存し、登記申請書類として提出する必要があります。登記申請DESを正式に完了させるためには、株式発行の登記申請が必要であり、効力発生日から2週間以内に手続きを済ませる必要があります。まず、新株発行の決定書、株主総会議事録、債務証書などの必要書類を準備し、それらを基に登記申請書を作成します。作成した申請書類を法務局に提出し、審査を経て登記が完了すると、法務局から通知が送付されます。最後に、手続きの完了を関係者に報告し、企業の財務諸表に反映させることでDESの実施が正式に認められます。必要書類と登記申請書を作成し、法務局に提出(2週間以内)法務局の審査を経て登記が完了し、通知を受領関係者への登記完了の報告、財務諸表への反映詳細な必要書類については後述しますが、手続きを円滑に進めるためには、計画的なスケジュール管理が大切です。弁護士や司法書士など法律の専門家への相談も有効です。DESの登記にかかる登録免許税DESの登記手続きには、税法に基づく登録免許税がかかります。税額は新株発行の登録内容によって決まり、発行する株式の額面や会社の資本額が影響します。登録免許税は増加する資本金額の0.7%ですが、最低税額として3万円が設定されており、算定した金額が3万円未満の場合は一律3万円となります。増加する資本金額×0.7%算定した金額が3万円未満の場合は3万円また、中小企業やベンチャー企業に対しては、一定の条件のもとで税額控除が適用される場合もあります。DESを検討する際は、これらのコストも考慮し、適用可能な控除制度を活用することで、資本政策をより効率的に進めることが可能です。債務の株式化(DES)の登記申請の必要書類・テンプレートDESの申請には、会社の形態に応じて必要な書類が異なります。スムーズな手続きを実現するために、事前に必要書類を整理し、抜け漏れなく適切に申請することが大切です。取締役会を設置していない会社の場合の必要書類取締役会を設置していない会社の場合、募集事項の決定から割当ての決定までを株主総会の特別決議で行うため、「株主総会議事録」を準備することが求められます。登記申請書DESの登記を法務局に申請するための書面です。株主総会議事録(募集事項の決定と割当ての決定を記録)取締役会がないため、株主総会で一連の決議を行い、その内容を記録します。株主リスト株主の氏名や持株数などを明記した、株主構成を示すための資料です。募集株式の引受けの申込みを証する書面(株式申込証)債権者が株式を引き受ける意思を示すために提出する書類です。金銭債権について記載された会計帳簿(500万円を超える場合など)金銭債権の具体的な金額や内容を証明するために必要になります。資本金の額の計上に関する証明書資本金の額が法律に則って計上されていることを証明するために提出します。取締役会設置会社(かつ非公開会社)の場合の必要書類取締役会を設置している非公開会社がDESを行う場合、株主総会で「募集事項の決定」を行い、取締役会で「割当ての決定」を行うため、取締役会を設置していない会社と比較すると、「取締役会議事録」が追加で必要となります。登記申請書株主総会議事録(募集事項の決定を記録)株主リスト取締役会議事録(割当ての決定を記録)募集株式の引受けの申込みを証する書面(株式申込証)金銭債権について記載された会計帳簿(500万円を超える場合など)資本金の額の計上に関する証明書DESの登記申請書類のひな形・テンプレートDESの申請を円滑に進めるためには、適切な書類を準備し、手続きを確実に行うことが重要です。特に、登記申請書の作成には注意が必要で、書類の不足や記入ミスによる手戻りを防ぐためにも、テンプレートの活用をおすすめします。法務局のホームページ法務局のウェブサイトでは、登記申請書類のテンプレートや記載例が公開されています。公式の書式を活用することで、記入ミスを防ぎやすくなります。ただし、ダウンロードできるファイルは通常の増資手続きを前提としているため、DESに特化した書類は含まれていない点に注意が必要です。参考リンク:商業・法人登記の申請書様式商業登記専門の書籍商業登記に関する専門書には、詳細な解説とともにひな型が掲載されている場合がありますので、上手に活用してみましょう。法律事務所、司法書士事務所ひな形のみを入手できるわけではありませんが、企業法務を扱う法律事務所では、登記申請書類の作成サポートを受けられるほか、会社の状況に応じた適切なアドバイスも期待できます。適切な準備と正確な手続きがDES実現のポイントDESは、企業の財務体質を改善するための有効な手段です。債務の圧縮や資本構成の見直しを通じて、財務健全化を図り、将来の成長に繋げることができます。一方、手続きには正確さと迅速さが求められます。法定のプロセスに則り、必要書類を整え、正確かつ円滑な手続きを進めましょう。申請手続きが難しい場合や不安な場合は弁護士や司法書士など法律の専門家に相談することも一つの手法です。