会社が事業目的を変更する際には、目的の変更登記の申請が必要です。しかし、「どのような手続きを進めればよいのか分からない」「書類作成が難しそう」と、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。目的の変更登記は、株主総会での決議を経て必要書類を揃えれば、専門家に依頼せずとも自分で申請することが可能です。本記事では、目的の変更登記が必要となる具体的なケース、手続きの流れ、そして押さえておくべき注意点について、わかりやすく解説します。目的の変更とは? 事業目的の変更は、どのような場合に必要となり、どのような意義があるのでしょうか?ここでは、事業目的の変更が必要となる具体的なケースやその意義について解説します。会社の事業目的を変更・追加すること事業目的とは、会社の収益源となる事業内容を指します。会社は、この事業目的の範囲内でのみ法律上の権利・義務を有します。そのため、事業目的は定款の法定記載事項として、すべての会社が必ず定款に記載しなければなりません。また、定款に記載された事業目的は、登記事項証明書にも反映され、広く公開される仕組みとなっています。これにより、会社の活動範囲が明確化され、取引先や投資家は登記事項証明書の目的欄を確認することで、その会社が営む事業内容を把握することができます。事業目的の記載は、取引の安全性を確保するうえで重要な役割を果たしています。そのため、事業目的に変更が生じた場合には、定款を変更し、目的の変更登記を申請する必要があります。なお、「事業目的の範囲内で」という基準は、定款に明示された目的に限定されず、その目的を遂行するために直接または間接に必要な行為も含まれるとされています。そのため、すべての付随業務を網羅的に記載する必要はありません。以下は登記事項証明書に記載された事業目的の例です。具体的な事業を列挙し、最後に「前各号に付帯関連する一切の業務」といった包括的な文言を加えるのが一般的です。目的の変更・追加には登記申請が必要会社が営業を継続する中で、新たな事業を始めたり、利益率の低い事業から撤退したり、あるいは会社の合併・分割や事業譲渡などにより事業内容が変わることは珍しくありません。定款に記載されていない事業を新たに行う際には、定款を変更して事業目的にその内容を追加する必要があります。一方、定款に記載された事業から撤退する場合には、必ずしも直ちに削除する必要はなく、再開の可能性も考慮し、削除のタイミングを慎重に検討するとよいでしょう。定款の事業目的を変更するには、取締役決定もしくは取締役会開催後に株主総会を開催し、定款変更の決議を行う必要があります。その後、必要書類を揃え、変更後2週間以内に法務局で目的の変更登記を申請します。この登記が完了すると、変更後の事業目的が登記事項証明書に反映されます。事業目的の変更は経営の根幹に関わる重要事項であるため、社長の独断で変更することはできません。必ず株主総会を開催し、株主の承認を得ることが必要ということを押さえておきましょう。定款に記載する事業目的の決め方定款に記載する事業目的には、現在の事業内容だけでなく、将来的に行う可能性のある事業を見据えて記載することも可能です。ただし、定款の事業目的の記載を細かく規定しすぎると、頻繁に変更が必要となり不都合が生じる可能性があります。一方で、「法令上認められる一切の事業」といった曖昧な記載では、会社の事業内容が明確に伝わらず、取引先や投資家からの信用を損なう恐れがあります。さらに、思いつく限りの事業目的を列挙すると、事業リスクが大きい会社と見なされる可能性もあるため注意が必要です。取引先や官公庁は、不動産契約、許認可申請、補助金申請などの場面で登記事項証明書を確認し、事業目的を審査することがあります。事業目的が具体性に欠けていたり、実態とかけ離れている場合、許認可申請の却下や資金調達の困難といった支障が生じる可能性があります。そのため、定款に記載する事業目的は、事業の実情や今後の計画をふまえ、慎重に検討する必要があります。事業目的をどの程度具体的に定めるべきかについては、判断に迷うこともあるでしょう。そのような場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談したり、同業他社の登記事項証明書を確認して参考にするのが有効です。また、許認可申請を予定している場合には、行政書士に相談して許認可の要件を確認するのもよいでしょう。株式会社の目的の変更の手続き事業目的の変更手続きは、主に次の2つのステップで構成されます。株主総会での定款変更の決議法務局への目的の変更登記の申請①株主総会での定款変更の決議事業目的は、定款の法定記載事項であるため、目的を変更するためには定款変更が必要です。この変更は、株主総会の決議によって行われます。定款は会社の根幹にかかわるルールなので、これを変更するには「特別決議」が必要です。会社法上の特別決議の要件は、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主が持つ議決権の2/3以上の賛成が必要とされています。ただし、特別決議の要件を定款で独自に変更している会社もあるため、自社の定款をよく確認しましょう。なお、株主総会を開催する際には、招集通知の発送が必要です。取締役会設置会社の場合は、招集決議のために取締役会の開催(取締役設置会社の場合には取締役の決定)も求められます。さらに、株主総会決議が成立した後は、株主総会議事録を作成する必要があります。②法務局への目的の変更登記の申請株主総会で定款変更が決議され、議事録を作成したら、目的の変更登記を申請します。申請期限は、目的の変更日から2週間以内となっていますので、決議成立後は速やかに書類を作成して、期限内に申請できるように手配することが重要です。必要書類は自分で作成し、申請することも可能ですが、司法書士に依頼して必要書類の作成や申請手続きを代理してもらうことも選択肢の一つです。目的の変更登記にかかる費用目的の変更登記を申請する際には、登録免許税や司法書士報酬に加え、郵送費などの費用が必要です。ここでは、目的の変更登記にかかる具体的な費用について解説します。 登記申請書類・必要書類の準備にかかる費用登記申請書や株主総会議事録などの必要書類を司法書士に依頼する場合、司法書士報酬が発生します。目的の変更にかかる司法書士の報酬は、3万円前後が一般的です。参考リンク:日本司法書士連合会 2024年実施アンケート一方で、ひな形などを活用してこれらの書類を自分で作成する場合、調査や書類作成に時間と手間はかかりますが、書類作成にかかる費用を節約することができます。登録免許税目的の変更登記を申請する際には、登録免許税を納付する必要があります。この登録免許税は一律3万円です。納付方法としては、収入印紙を貼付するか、金融機関の窓口で納付書を使用して納付する方法があります。申請前に、収入印紙を購入するか、納付手続きを完了しておくことが必要です。また、オンラインで登記を申請する場合は、インターネットバンキングを利用した納付も可能です。具体的な手続きについては、法務局の案内をご確認ください。参考リンク:法務局Q&A 登録免許税はどのような方法で納付しなければならないのですか?その他の雑費また、申請や還付書類の送付には送料がかかります。(法務局へ直接訪問して申請書を提出したり、還付書類を受領する場合は、交通費が必要です)さらに、変更後の登記事項証明書を取得する際には手数料も発生します。目的の変更登記の必要書類・ひな形(テンプレート)法務局に目的の変更の登記を申請する際には、登記申請書や株主総会議事録などの必要書類を準備する必要があります。ここでは、これら必要書類について詳しく解説します。目的の変更登記の必要書類目的の変更の登記の必要書類は、以下のとおりです。登記申請書目的の変更登記に必要な申請書です。詳細な記載方法は、「目的の変更の登記申請書のひな形(テンプレート)をダウンロード」を参考にしてください。「登記すべき事項」としての目的は、変更した部分だけでなく、変更部分のみならず、変更後のすべての目的を記載する必要がある点に注意しましょう。株主総会議事録定款変更に関する株主総会決議の議事録を添付します。定款の変更内容の記載方法として、以下の選択肢があります:議事録本文に変更内容を直接記載する方法別紙として新旧対照表を添付する方法別紙として変更後の定款を添付する方法いずれの方法を選んでも、変更後の事業目的が明確に把握できるような記載とすることが重要です。株主リスト株主総会決議時点での主要株主を記載したリストを提出します。登記委任状登記手続きを司法書士に委任する場合に必要です。委任状には会社の代表印を押印する必要があります。自社で申請を行う場合には不要です。必要書類のひな形(テンプレート)をダウンロード登記申請書のひな形は、法務局のホームページからダウンロードすることができます。記載例も掲載されているため、自分で作成する際には参考にするとよいでしょう。参考リンク:商号・目的の変更、本店移転以下はホームページでダウンロードできるPDF形式の申請書書式です。Word形式や記載例もダウンロードできます。自分で申請することも可能だが不安があれば専門家からのアドバイスも事業目的の変更登記は、自分で申請することも十分可能です。申請書や株主総会議事録の作成は、法人登記の中では比較的難易度が低いため、初めての方でも自分で必要書類の作成や法務局への登記の申請が可能です。書類作成にあたっては、法務局のホームページで公開されているひな形や記載例が役立ちます。新たな事業目的を追加する際は、その記載方法を慎重に検討する必要があります。手続きや記載方法に不安がある場合、または手間を省きたい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがよいでしょう。また、許認可申請を予定している場合などは、行政書士への相談も有効です。