会社が事業を拡大する上で、支店の設置は重要な戦略の1つになり得ます。支店は、新たな顧客層へのアクセス、市場シェアの拡大、地域経済への貢献など、様々なメリットをもたらす可能性があります。ただし、支店を設置するには、登記や届出といった法的な手続きが必要となります。このような手続きが必要ということを知らない方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、支店設置の登記と届出の手続きについて、具体的な手順や必要書類、注意点などを詳しく解説します。この記事が、支店設置の手続きをスムーズに進める、一助となれば幸いです。GVA 法人登記のクーポン付メルマガを購読登記申請のタイミングは忘れた頃にやってくるものです。GVA 法人登記のメルマガでは、毎号割引クーポンを配布しております。登録フォームからぜひご購読ください。支店設置の登記とは?この章では、支店の概要や設置する理由、メリットを中心に解説します。支店とは?会社における支店とは「本店とは別に、ある程度の独立性を持って営業活動を行う拠点」を指します。支店には、営業活動を行うための人員や設備、資金などが配置され、必須ではありませんが支配人(支店長)などの責任者が置かれるケースもあります。この支店は、単なる営業所とは異なる会社の一部門として、より重要な役割を担います。支店と営業所の違いは、その権限の範囲にあります。営業所は、あくまで営業活動の拠点であり、契約締結などの重要な意思決定は本店で行われます。一方、支店は、支店長等に一定の権限が委任され、独自に契約締結などを行うことができます。支店は、「ある範囲において会社の営業活動の中心となり、本店から離れ独自に営業活動を決定し、対外的取引をなしえる人的・物的組織のこと」とされています。支店設置には登記申請が必要会社法では、支店を設置した場合、本店所在地を管轄する法務局に登記申請を行うことが義務付けられています。この登記を行うことで、支店の存在が公になり、第三者との取引や契約締結などが円滑に行えるようになります。なお、支店設置の他にも、移転や廃止する際に登記申請が必要です。支店の設置や廃止は、取締役会の決議(または取締役の過半数の一致)によって決定され、株主総会の決議は不要です。支店の廃止や移転など変更が生じた際には登記が必要ですが、店舗名として「支店」がついているからといって必ず支店登記するわけでなく、どの店舗を支店登記するかは自由に決められます。飲食店やコンビニで、エリア名を冠した「◯◯店」をよく見かけますが、これらはすべて支店設置の登記がされているわけではないということです。他の登記事項と同じく、決定後2週間以内に支店設置の登記申請を行う必要がありますので、十分にご注意ください。株式会社・合同会社・有限会社など、会社の種類を問わず、支店の設置は可能です。なお、2022年9月1日施行の会社法改正により、支店の登記は本店所在地のみで行うこととなりました。これは、以前の制度と比較して、手続きが簡略化されたことを意味します。以前は、本店と支店の管轄法務局が異なる場合、両方の法務局で手続きを行う必要があり、支店側の登記簿は「支店登記簿」と呼ばれていました。しかし、法改正により、このような二重の手続きは不要となりました。支店の設置は、株式会社はもちろん有限会社や合同会社でもできますが、本記事では株式会社の支店設置について解説します。支店を設置する理由・メリット営業拠点に一定の権限をもたせることで、契約や銀行口座開設、融資契約などの権限を委任することが可能になります。また、支店開設に加えて支配人を配置すれば、印鑑登録や訴訟代理の権限を付与することも可能で、経営における意思決定のスピードアップ効果が期待できます。その他にも以下のようなメリットが考えられます。入札・補助金の条件となっている入札や補助金、企業誘致などのルールによっては、その都道府県での支店登記が条件とされることがあります。一般的には都内に本社を置く企業が地方に支店を設置することが多いですが、中には東京都のみの補助金を活用するために地方企業が東京に支店を設置するケースもあります。地域経済への貢献支店となる企業が進出することで、その地域にとっては、地方税収の増加や雇用促進、経済効果(人口増加など)が期待できます。「支店」と聞くと、企業規模が大きく全国展開しているような企業のみが対象になるイメージもありますが、実はスタートアップや中小企業、合同会社や有限会社にとっても、事業拡大や地域進出の有効な手段となる可能性がありまます。支店設置の登記申請手続き支店を設置するには登記申請が必要です。この手続きを行うことで、会社は支店の存在を公に認められ、様々な法的効果を得ることができます。取締役会で支店設置を決議するまず、支店設置に関する社内での意思決定を行います。通常は、取締役会で支店設置の決議(または取締役の過半数の一致)を行います。他の登記事項(例:本店移転など)では、株主総会の決議が必要なものもありますが、支店設置の場合には不要です。株主総会決議が必要な登記申請に比較すると、少ない手間で手続きすることができます。登記申請書・必要書類を作成し法務局に登記申請支店設置の登記申請書を作成し、必要書類として議事録を添付して法務局に提出します。前述の通り、2022年9月1日以降の会社法改正により、支店の登記は本店所在地のみで行うこととなりました。以前は、支店の所在地を管轄する法務局でも登記を行う必要がありましたが、法改正により手続きが簡略化されています。支店設置の登記の登録免許税支店設置の登録免許税は、1か所につき6万円で、収入印紙を貼付して納付します。支店を移転したり廃止したりする場合は、それぞれ3万円の登録免許税がかかります。自分で登記申請書を作成する場合には、費用は登録免許税のみとなりますが、司法書士などの専門家に依頼する場合には、別途報酬が必要となります。また、会社法改正以前は、支店所在地の管轄法務局にも登記申請が必要だったため、1カ所につき9,000円の登録免許税がかかっていましたが、現在は不要です。支店登記の必要書類・ひな形(テンプレート)支店登記の必要書類や、登記申請書の書式や記入例について説明します。支店登記の必要書類支店設置は決議内容がシンプルということもあり、自分で登記申請書類を作成して手続きすることも十分可能です。支店設置の登記申請に必要な手続は、以下のとおりです。支店設置の登記申請書支店設置の登記申請を行うための書類です。法務局の公式サイトで書式を確認できますので、参考にして作成しましょう。(書式のリンク先URLは後述します)添付書類:取締役会議事録(取締役会設置会社の場合)支店設置を決議した議事録です。なお、取締役会非設置会社の場合には、取締役決定書が必要です。登録免許税支店1カ所につき6万円です。委任状(代理人に委任する場合)司法書士など専門家に登記申請を依頼する場合には必要です。自分で支店登記を申請するためのひな形・記入例支店設置登記申請書のひな形・テンプレートは、法務局の公式ホームページからダウンロードできます。参考:法務局「株式会社 支店設置登記申請書」書式(word)、記入例(PDF)支店の設置後に必要な届出支店の設置をするときは、登記申請以外にも様々な届出などが必要となります。これらを怠ると、支店設置で期待する効果が受けられなくなってしまう場合がありますので注意しましょう。支店を設置したら必ず行う届出支店を新設した場合、以下の関係機関への届出が必要になります。個別の届出書類は、状況に応じて異なる場合がありますので、自社のケースに適合する書類を事前に確認してご準備ください。(1)税務署支店を設置した場合には「異動届出書」等を提出します。支店登記を行わない場合には、届出は不要です。(2)都道府県税事務所①本店と同一県内に支店を設置する場合本店を管轄する都道府県税事務所に「異動届出書」等を提出する。②他府県に支店を設置する場合・本店を管轄する都道府県税事務所に「異動届出書」等を提出する。・支店を管轄する都道府県税事務所に「法人設立・設置届出書」等を提出する。(3)労働基準監督署支店で従業員を雇用する場合には、「労働保険 保険関係成立届」等を提出する必要があります。(4)ハローワーク支店で従業員を雇用する場合には、「雇用保険 適用事業所設置届」等を提出する必要があります。(5)年金事務所要件に該当する従業員を雇用する場合には、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」等を提出する必要があります。場合によっては必要となる届出上記以外にも、支店の事業内容や状況によっては、以下の届出や手続きが必要となる場合があります。許認可事業内容によっては、許認可の届出が必要となる場合があります。例えば、建設業許可を取得しており、支店を「建設業許可の要件を満たした営業所」として追加する場合には、「変更届出書」等の提出が必要です。銀行口座支店名義の銀行口座を開設する場合には、金融機関に届出を行う必要があります。取引先取引先によっては、支店設置の届出が必要となる場合があります。これらの届出は、支店の事業内容や状況によって異なります。必要な届出については、関係機関に確認するようにしましょう。支店設置後に必要な届出は自社の状況に合わせて確認しましょう支店設置の登記と届出は、会社が事業を拡大する上で重要な手続きになり得ます。これらの手続きを適切に行うことで、会社は支店の存在を公に認められ、様々な法的効果を得ることができます。注意が必要なのが支店の設置には、一般的な「支店」のイメージとは異なる手続が必要という点です。不慣れな場合や支店設置による影響・変更点が不明な場合は、弁護士や司法書士など法律の専門家にアドバイスを求めることも有効です。