会社の取締役などの役員が死亡した場合、相続などの一般的な手続きに加えて、役員変更登記の申請を行う必要があります。役員本人が死亡しても会社は存続しており、適切に対応しなければ会社運営に支障をきたす可能性もあるため、経営を継続するために必要な手続きといえます。状況的に急に手続が必要になることが多いですが、必要書類を揃えて適切な手順を踏めば自分で申請することも可能です。特に中小企業では、コスト面からも自分で手続きを行いたい、すぐに相談できる人が周りにいないという場合もあるかもしれません。本記事では、主に株式会社・有限会社の役員の家族・関係者を対象として、役員死亡登記を自分で申請するための具体的な方法、必要書類のひな形、注意すべきポイントについて解説します。GVA法律事務所では、企業法務に関する最新の情報や実務に役立つオンラインセミナーを開催しています。最新の法律トピックに関する記事、セミナー情報を受信できますので、ぜひメールマガジンにご登録ください。登録フォームはこちら会社の役員が死亡したら必要な手続会社役員(経営者)ならではの手続が必要になる役員かどうかに関わらず、人が亡くなった場合、死亡届の提出、相続手続き、健康保険や年金などの社会保険関連の手続きを行う必要があります。会社役員の場合は、これらに加えて役員変更登記をはじめとした手続が必要となります。死亡した役員が代表取締役かどうかなどの事情によっても異なる点があるので注意が必要です。会社役員の死亡時に必要な会社関連の手続会社役員が死亡した場合、以下に挙げられる複数の手続きを並行して進める必要があります。役員変更登記死亡から2週間以内に法務局への登記申請が必要です。代表取締役の場合は後任者の選任と同時に手続きを行います。本記事では主にこの登記について解説します。後任役員の選任手続き株主総会や取締役会を開催し、必要に応じて新しい役員を選任します。特に代表取締役の場合は緊急性が高く、速やかな対応が必要です。取引先・金融機関への連絡主要な取引先、銀行、リース会社などに死亡の事実を報告し、今後の取引などについて協議します。契約書の名義変更手続きも必要になる場合があります。許認可関連の手続き建設業許可、宅建業免許など、代表者個人に紐づく許認可がある場合は、監督官庁への届出や変更手続きが必要です。各種名義変更手続き銀行口座、クレジットカード、リース契約、保険契約などの代表者名義の変更手続きです。役員死亡時に必要な登記の手続役員が死亡した際には法務局への登記申請が必要です。代表取締役かそれ以外の役員かにより手続きが異なるため、それぞれ解説します。代表取締役ではない取締役が死亡した場合代表取締役ではない取締役が死亡した場合、まず死亡の事実を正確に確認し、社内関係者や取引先などの社外への情報共有を行います。取締役の死亡により、既定の人数に満たない可能性があります。取締役会設置会社であれば、3名以上の取締役が必要で、取締役非設置会社では、定款の規定を下回らないよう注意する必要があります。死亡に伴い、新たな取締役を選任するかどうかを検討し、選任する場合は、株主総会での選任決議、議事録の作成、登記申請など、必要な手続きを確認します。役員の死亡登記と同時に後任の就任登記をすれば申請の回数は一度となりますが、死亡登記のみ登記申請することも可能です。どちらにしても早い段階で役員人数に関する規定を確認しておきましょう。死亡の登記は、死亡の日から2週間以内という法定期限内に登記申請を完了させる必要があります。また、取締役が会社法又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任の手続をすることを怠ったことは、会社法上の罰則の対象となっていますので、員数を書く場合には早急に選任をする必要があります(会社法第976条第22号)。代表取締役が死亡した場合代表取締役が死亡した場合、会社の法的な代表者が不在となり、対外的な意思決定や契約締結に支障をきたすおそれがあるため、代表以外の役員よりも速やかな対応が必要になります。死亡の登記申請に加えて以下の確認や手続が発生します。取締役会設置会社の場合取締役会を開催し、現在の取締役の中から新たな代表取締役を選定します。取締役会決議により代表取締役を選定し、議事録を作成する必要があります。取締役会非設置会社の場合株主総会を開催して新たな代表取締役を選任するか、定款で取締役の互選による選定など別の選任方法が定められている場合はその規定に従います。取締役が複数いる場合は、定款の定めにより他の取締役が代表権を取得することもあります。同時登記申請代表取締役が不在の期間を最小限に抑えるためには、新たな代表取締役の就任登記と、死亡した代表取締役の死亡登記を同時に申請します。代表権について確認取締役の人数が1名になった場合、定款に「取締役が1名の場合は、その者が代表取締役となる」旨の規定があるかを確認します。このような規定がある場合は、株主総会などの選定手続きを経ずに代表権を取得することができます。代表取締役の死亡では手続が複雑になる可能性があります。不安な場合は弁護士や司法書士など法律の専門家に相談することも検討しましょう。有限会社(特例有限会社)の取締役が死亡した場合有限会社では、取締役が2名以上いる場合、定款の定めや取締役の互選、または社員総会の決議によって代表取締役を選定します。代表取締役を選任しない場合は、各取締役がそれぞれ会社を代表することも可能です。また、代表取締役の死亡により、取締役が1名となった場合、その取締役が自動的に代表権を取得します。ただし、この場合「代表取締役」という肩書きでの登記はできず、「取締役」として登記されます。特例有限会社では、定款で取締役を2名以上と定めている場合のみ、員数を満たすために後任選任や定款変更が必要になります。役員の人数と死亡登記の関係会社の役員数は、会社法で定められた最低人数と定款で規定された人数の両方を満たす必要があります。会社法:取締役会設置会社では最低3名以上、取締役会非設置会社では最低1名以上定款:(例)「取締役は3名以上5名以内とする」※会社ごとに異なる役員の死亡により、上記の規定を下回った場合は、速やかに後任者を選任しなければなりません。前述したとおり、死亡登記のみを先行して登記できますが、会社運営に支障をきたさないよう、速やかに後任者を選任し、登記する必要があります。役員の死亡登記に必要な書類・登録免許税役員の死亡登記の必要書類と登録免許税について解説します。死亡の登記のみの場合に必要な書類死亡した役員の退任登記のみを申請する場合、以下の書類が必要になります。変更登記申請書(役員の死亡)後述する法務局の所定様式を使用し、死亡した役員の氏名、死亡年月日、退任事由を記載します。死亡を証明する書類死亡届または法定相続情報一覧図の写し後任の役員を選任する場合に必要になる書類死亡した役員の後任者選任の登記を同時申請する場合、上述の変更登記申請書のほか、以下の書類が必要になります。これらは役員の死亡を伴うかどうかに関わらず役員変更で必要な書類です。株主総会議事録取締役の選任や、取締役会非設置会社での代表取締役の選定を行った場合に必要です。議事録には開催日時、場所、出席者、決議内容を明記し、議長と出席した株主または取締役が署名押印します。株主リスト株主総会を開催した場合に添付が必要な書類です。議決権を行使した株主の氏名、住所、議決権数、議決権割合を記載します。取締役会議事録取締役会設置会社で代表取締役を選定した場合に必要です。取締役会の開催日時、場所、出席取締役、決議内容を記載し、出席した取締役が署名押印します。就任承諾書新たに選任された役員が就任を承諾したことを証明する書類です。本人が署名押印し、就任を承諾する旨を明記します。印鑑証明書新たに選任された代表取締役が法務局に印鑑を届け出る場合に必要です。定款定款変更を伴う場合や、定款の定めにより代表取締役を選定した場合などで定款を提出する必要があります。委任状司法書士などの代理人に登記申請を依頼する場合に必要です。今回は自分で申請する前提ですが、手続きが複雑な場合の選択肢として覚えておくと良いでしょう。役員死亡登記の必要書類のひな形・テンプレート役員変更登記の書類のひな形は、法務局Webサイトの「商業・法人登記の申請書様式」で配布されていますのでご参考ください。株式会社役員変更登記申請書(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)・記載例(PDF)|ひな形(Word形式)※ひな形内には役員死亡だけでなく辞任なども対象にした内容になっていますので、利用する場合には不要な手続を削除するなど調整してください。役員の死亡登記の登録免許税役員の死亡による退任登記の登録免許税は、会社の資本金が1億円以下の場合には1万円で、1億円を超える場合には3万円になります。退任登記と同時に後任者の就任登記を同時に行う場合には追加の登録免許税はかかりませんが、別日に改めて就任登記をする場合には、会社の資本金額に応じて1万円又は3万円の登録免許税が必要になります。不安がある場合は専門家に相談を役員の死亡登記は手続の期限など以上に、会社にとっての重要人物がいなくなるという影響があります。手続きを誤ると会社運営に支障をきたす可能性があります。特に代表取締役の死亡時は緊急性が高く、適切な判断と迅速な対応が求められます。手続きに不安を感じる場合や、法的な判断が必要な状況では、無理をせず弁護士や司法書士など法律の専門家に相談することも検討してください。