会社を設立してしばらくすると、決算や税理士との会話の中で「資本剰余金」「利益剰余金」という言葉が出てくるようになります。どちらも貸借対照表(BS)の純資産の部に並んでいる項目ですが、その性質や使い方はまったく異なります。特にスタートアップでは、VCからの出資を受けた後や、利益を内部留保に回す際にこれらを正確に理解していないと、税務・法務の両面でミスが起きやすくなります。本記事では、両者の違いを整理し、増資・減資との関係や実務上の注意点を解説します。資本剰余金と利益剰余金資本剰余金とは資本剰余金とは、資本取引(株主との直接的なお金のやり取り)から生じた剰余金のうち、資本金に計上しなかった部分のことです。貸借対照表の純資産の部に記載され、「資本準備金」と「その他資本剰余金」の2つで構成されます。資本準備金増資(募集株式の発行)を行った際、払い込まれた金額の2分の1を超えない範囲で資本金への計上を省略し、資本準備金として積み立てることができます(会社法445条2項)。たとえばVC(ベンチャーキャピタル)から1億円の出資を受けた場合、5,000万円を資本金、残り5,000万円を資本準備金とする処理が一般的です。資本準備金は原則として株主への配当に回すことができません。資本準備金が発生する具体例シリーズAラウンドで投資家から第三者割当増資を受け、払込額の半分を資本金、残りを資本準備金に計上する会社設立時に発起人が出資した金額の一部を資本準備金とするその他資本剰余金資本剰余金のうち資本準備金以外の項目です。主な発生原因は、①資本金や資本準備金を減少させた際の差額、②自己株式の処分差益、③合併・会社分割などの組織再編時に生じた差益などです。その他資本剰余金は株主への配当の原資として使用できます(株主総会の普通決議が必要)。利益剰余金とは利益剰余金とは、事業活動(損益取引)を通じて獲得した利益のうち、配当として社外に流出せず会社内部に蓄積された金額のことです。資本剰余金と同じく純資産の部に記載されますが、その出どころはまったく異なります。利益剰余金は「利益準備金」と「その他利益剰余金」で構成されます。その他利益剰余金には、任意積立金や繰越利益剰余金が含まれます。繰越利益剰余金は、毎期の利益から配当や積立金を差し引いた残りが積み上がったものです。利益剰余金が変動する具体例年間で2,000万円の純利益が出て、うち500万円を配当に回し、残り1,500万円が繰越利益剰余金として積み上がる赤字が続いてプロダクト開発に先行投資している創業期のスタートアップで利益剰余金がマイナス(=繰越損失)になる資本剰余金と利益剰余金の違い両者の最大の違いは「お金の出どころ」です。資本剰余金は株主からの出資(外部からの資金調達)に由来し、利益剰余金は会社自身が事業で稼いだ利益に由来します。同じ純資産でも、その中身が何を意味するかは大きく異なります。項目資本剰余金利益剰余金源泉資本取引(増資・組織再編など)損益取引(事業で稼いだ利益)性質株主から預かったお金の一部会社が自力で積み上げたお金主な内訳資本準備金/その他資本剰余金利益準備金/その他利益剰余金(繰越利益剰余金など)配当への利用可能(その他資本剰余金のみ。普通決議が必要)可能(普通決議が必要)欠損填補への利用可能可能資本金への組入れ可能(登記申請が必要)可能(登記申請が必要)税務上の扱い配当時は資本の払戻し扱い(みなし配当課税に注意)配当時は配当所得として課税スタートアップにとって重要な視点スタートアップが資金調達を繰り返すと、資本剰余金(特に資本準備金)が膨らむ傾向があります。一方、プロダクト開発や採用への先行投資が続くと利益剰余金はマイナス(繰越損失)のままであることも多いです。投資家や金融機関は「純資産の内訳」に注目します。利益剰余金が大きい会社は「事業で稼げる体制ができている」と評価される傾向があり、同じ純資産額でも資本剰余金だらけの会社より信頼性が高く見られることがあります。自社のBSを見るときは、単に純資産の合計だけでなく、その内訳まで意識するようにしましょう。増資や減資への影響・注意点増資時の影響増資(募集株式の発行)を行うと、払込金額は資本金と資本剰余金(資本準備金)に振り分けられます。増資の都度、以下の点を確認してください。①資本金をいくらにするかで税負担が変わる法人税・住民税・事業税には「資本金1億円以下の中小法人」に対する軽減措置があります。増資で資本金が1億円を超えると、中小法人特例(軽減税率・欠損金の繰越控除の特例など)が使えなくなります。このため、増資額が大きい場合は、払込額の半分を資本準備金に計上して資本金の増加を抑える戦略がよく使われます。また、資本金と資本準備金の合計が1億円を超えると外形標準課税の対象となる場合があり(主に地方税)、こちらも注意が必要です。②増資の登記申請が必要募集株式の発行(増資)を行った場合、払込期日から2週間以内に変更登記を申請しなければなりません(会社法915条)。登記申請を怠ると過料(罰金)の対象となります。登記申請に必要な主な書類は以下のとおりです。登記申請書株主総会議事録または取締役会議事録(決議機関による)払込みがあったことを証する書面(通帳のコピーなど)資本金の額の計上に関する証明書株主リスト剰余金の資本組入れ(利益剰余金を資本金に組み入れる)利益剰余金(繰越利益剰余金など)を資本金に組み入れる手続きを「剰余金の資本組入れ」といいます。これは実際に外部から資金を調達するわけではなく、BSの内部で「利益剰余金」という項目を「資本金」に振り替える処理です。どんな場面で使われるか利益剰余金が潤沢になってきた段階で、対外的な信用力を高めるために資本金を引き上げたい場合株式を発行せずに資本金を増やしたい(既存の持分比率を変えたくない)場合注意点この手続きにも変更登記が必要です(資本金の額が変更されるため)。また、利益剰余金を減らして資本金を増やすということは、配当の原資が減ることを意味します。資本準備金の資本組入れ資本準備金を資本金に組み入れることも可能です(会社法448条準用)。この場合も変更登記が必要になります。いずれの場合も、株主総会の普通決議で承認を得ることが前提です。減資時の影響減資とは資本金を減少させることです。減資の目的は主に2つあります。①欠損填補(繰越損失の解消)累積赤字(繰越損失)が積み上がった場合、将来の利益を配当に回せるようにするために、資本金や資本準備金を取り崩して損失を穴埋めする手法です。スタートアップが黒字転換した際に、過去の赤字を解消して配当可能額を確保するために使われることがあります。②資本金の適正化たとえば、当初多く積んだ資本金を減らして資本剰余金(その他資本剰余金)に振り替えることで、配当の原資を作る目的で行われることもあります。手続き上の注意点減資には通常、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)と債権者保護手続きが必要です。債権者保護手続きとは、官報公告や個別通知を行い、債権者が一定期間(最低1ヶ月)異議を申し出られる機会を設けるもので、この期間が経過するまで減資の効力は生じません。ただし、欠損填補を目的とし、かつ定時株主総会で決議する場合は普通決議で足りる例外があります。また、減資後も変更登記の申請が必要で、債権者保護手続きの完了後2週間以内に申請しなければなりません。GVA 法人登記で剰余金の資本組入れの必要書類を自分で作成剰余金の資本組入れや増資の登記申請は、準備する書類が多く、専門知識のない方には難しく感じられがちです。しかし、司法書士に依頼すると数万円〜十数万円の報酬がかかるケースもあります。GVA 法人登記なら、変更したい情報を入力するだけで、登記申請書・株主総会議事録・株主リスト・準備金および剰余金の額に関する証明書など、必要書類をまとめて自動作成できます。最短7分、12,000円(税別)から対応可能で、郵送申請のサポートや収入印紙の購入オプションも充実しています。法務局に行く時間がない方や、コストを抑えながら確実に登記申請を進めたい方に最適なサービスです。