「うちの社長は代表取締役社長だけど、『代表取締役』だけの会社もありますね」 「名刺交換をした相手が『取締役社長』だったけど、この人と契約を結んで大丈夫なのか?」ビジネスシーンで当たり前のように使われるこれらの肩書に関する疑問。実は、両者には法律上、明確な違いがあります。この違いを知らないと、自社の組織構造を正しく理解できなかったり、取引で思わぬリスクもゼロではありません。本記事では「社長」と「代表取締役」の違い、そして役員変更に伴う登記手続きの要不要まで解説します。GVA法律事務所では、企業法務に関する最新の情報や実務に役立つオンラインセミナーを開催しています。最新の法律トピックに関する記事、セミナー情報を受信できますので、ぜひメールマガジンにご登録ください。登録フォームはこちら違いは「社内の肩書」か「法律上の役職」か結論から言うと、「社長」と「代表取締役」の最も大きな違いは、その言葉が会社内部で決められた「肩書」なのか、それとも会社法という法律で定められた「役職」なのかという点にあります。区分法律上の役職社内の肩書具体例代表取締役、取締役、監査役など社長、会長、副社長、CEO、常務、専務、執行役員など根拠会社法で定められている各社の定款や社内規程で定められている役割・権限法律で権限や責任が明確に規定されている会社の内部ルールで役割が決められている変更手続き法務局への登記申請が必須社内での辞令や手続きのみで完結(肩書の登記は不要)このように、「代表取締役」は法律に基づいた役職であり、法的な権限と責任が伴います。一方で、「社長」という役職は法律上の役職ではなく、あくまでその会社内でのポジションや呼称に過ぎません。代表取締役とは?では、法律上の役職である「代表取締役」とは、具体的にどのような存在なのでしょうか。代表取締役は、文字通り会社を代表し、その業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限(代表権)を持つ取締役です(会社法第349条第4項)。代表取締役が会社の名義で行った契約などの法律行為は、そのまま会社の行為として法的な効力を持ちます。代表取締役になるには、まず株主総会で「取締役」として選任され、その上で、会社のルールに従って取締役の中から「代表取締役」として選定される、という二段階のプロセスが一般的です。選定方法は会社の定款の定めによって異なり、主に以下の4つのパターンがあります。定款に直接代表取締役の氏名を記載する取締役会の決議で選定する(取締役会設置会社の場合)取締役の互選(取締役同士の話し合い)で選定する株主総会の決議で選定する会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)を見れば、誰が代表取締役として登記されているかを誰でも確認することができます。社長とは?一方、「社長」自体には法律上の明確な定義はありません。一般的には、会社の業務執行におけるトップであることを示す役職・肩書です。会社の顔として、事業戦略の策定や組織の統括といったリーダーシップを発揮する役割です。「CEO」や「頭取」は?近年よく耳にする「CEO(Chief Executive Officer/最高経営責任者)」や、銀行で使われる「頭取」といった呼称も、「社長」と同様、法律上の役職ではありません。これらも社長と同様に、その組織における業務執行のトップを示す「肩書」であり、会社が自由に設定し、使用することができます。「代表取締役社長」と名刺に書かれている理由日本の多くの会社で「代表取締役社長」という肩書が使われるのは、「会社法上の代表者(代表取締役)」と「社内での業務執行のトップ(社長)」が、同一人物であることを社内外に示すという背景があります。これにより、名刺を受け取った相手は、「この人は会社の法的な代表権を持ち、かつ社内の最終的な意思決定を行う責任者なのだな」と一目で理解することができます。これら役割や権限が複数の人に別れているよりはさまざまな面で効率的です。取締役社長や執行役員社長との違いここで少し応用編です。世の中には「代表取締役」ではない「社長」も存在しますが、これはどう扱うのでしょうか?取締役社長この場合、その人は「取締役」ではありますが、「代表権」は持っていません。会社を法的に代表する権限は、別にいる「代表取締役(例えば、代表取締役会長)」が持っています。執行役員社長さらにこの場合、その人は「取締役」ですらありません。従業員のトップという位置づけの「執行役員」という肩書と、「社長」という肩書を兼ねている状態で、会社から雇用された社員です。会社の経営方針を決定する取締役会のメンバーではないため、法的な経営責任を負う立場とは異なります。法的な権限はないが社内では一定の責任を負っている「雇われ社長」という可能性もあります。このように、「社長」という肩書が付いていても、必ずしも会社の法的な代表者であるとは限らないのです。「取締役」の変更には法務局への登記申請が必須「社長」や「執行役員」といった社内で定められた肩書の変更は、社内での人事異動の辞令や組織図の変更といった内部手続きだけで完了し、法務局への登記申請は不要です。一方で、「取締役」や「代表取締役」といった会社法で定められた役員に変更があった場合は、その変更があった日から2週間以内に、管轄の法務局へ役員変更登記を申請する義務があります。株式会社において登記が必要となるのは、主に以下のようなケースがあります。就任:新たに取締役に就任した退任・辞任:取締役が任期満了で退任した、または任期途中で辞任した任期満了による再任(重任):任期満了後、同じ人が引き続き取締役に就任した氏名や住所の変更:取締役の結婚による氏名変更や、引越しによる住所変更があった(※代表取締役の場合)※その他にも解任や死亡時の登記もありますなお、こうした役員変更登記の申請は、自社で行うことも可能ですが、変更内容によっては弁護士や司法書士など法律の専門家に相談・依頼することも確実・有効です。役員就任時の登記申請に必要な手続きは以下の記事もご参考ください。参考リンク:取締役の就任承諾書のひな形と記載事項を解説肩書や役職からその人の「法的な権限」がわかる「社長」と「代表取締役」の最も大きな違い、それは「社内の肩書」か「法律上の役職」かという点です。これはビジネスを行う上で非常に重要です。例えば、取引先と重要な契約を結ぶ際、相手の名刺に「取締役社長」と書かれていたとしても、その方が本当に会社を代表する権限を持っているかは分かりません。確実に契約を進めるためには、相手企業の登記事項証明書を確認し、「代表取締役」は誰なのかを正確に把握することが、リスク管理の基本です。悪意を持った会社では、これら役職を偽装したり、代表権のない役員本人による違法行為につながる可能性もあります。不安な場合は弁護士など法律の専門家のアドバイスも得ながら進めることが確実です。