役員報酬は、会社の経営を担う役員にとって重要な収入源であり、会社の経営にも影響します。役員報酬の決定や変更は、税法や会社法などの法律に従って適切に行う必要があり、その手続きは複雑で多岐にわたります。本記事では、主に株式会社を対象に役員報酬の基礎知識から変更に必要な手続き、議事録の書き方、そして役員報酬変更の株主総会議事録のひな形(テンプレート)まで、役員報酬の変更に必要な手続について解説します。GVA法律事務所では、企業法務に関する最新の情報や実務に役立つオンラインセミナーを開催しています。最新の法律トピックに関する記事、セミナー情報を受信できますので、ぜひメールマガジンにご登録ください。登録フォームはこちら株式会社における役員報酬とは?役員報酬は、会社の役員に対して支払われる報酬であり、会社の経営戦略や税務にも深く関わる重要な要素です。役員報酬の決定や変更は、会社の将来を左右する可能性もあるため、慎重な検討が求められます。役員(取締役・監査役など)の報酬を指す①役員の対象範囲会社法上の役員とは、主に取締役、会計参与、監査役などを指します。取締役は会社の業務執行、会計参与は取締役などと共同で貸借対照表や損益計算書などを作成します。そして、この作成された計算書類を監査するのが監査役です。なお、執行役員も会社役員と思われがちですが、会社法上の役員には含まれません。②役員報酬と従業員給与の違い従業員は労働契約に基づいて会社に雇用され、労働時間や成果に応じて給与が支払われます。一方、役員は会社と委任契約を結び、経営責任を負うため、その報酬は会社の業績や貢献度によって決定されます。役員報酬のメリットとしては、規定を守れば経費として損金算入が可能で、給与と同じように会社全体の税負担の軽減に役立つ点があげられます。また、役員報酬の支払い方を工夫することで、社会保険料を軽減することも可能です。③役員報酬を決めるタイミング役員報酬は、会社設立時に定款で定めるか、株主総会決議によって定めることになります。会社法上は、役員報酬の決定時期に制限はありませんが、役員報酬について損金参入するためには、役員報酬を設立後3ヶ月以内に株主総会で決定する必要があります。また、その後に役員報酬を変更する場合も、会社法上は、変更時期に制限はありませんが、事業年度の期首から3ヶ月以内に役員報酬が変更された場合には、役員報酬全額を損金として算入することが認められるため、事業年度の期首から3ヶ月以内に変更することがよく行われています。役員報酬の種類税法上で損金として認められる役員報酬は、主に以下の3種類に分けられます。定期同額給与事前確定届出給与業績連動給与①定期同額給与定期同額給与とは、法人の役員に対して1ヶ月以下の頻度で定額を報酬として支払う制度のことです。一定の期間毎に報酬を支払うという点では、一般社員に支給する月給と似ていますが、定期同額給与は株主総会等であらかじめ金額を決定しておかなければなりません。②事前確定届出給与事前確定届出給与とは、株主総会などで事前に決定された金額を、特定の時期に支払う役員報酬のことです。従業員への賞与に似た報酬制度で、支払う時期と金額を事前に決め、税務署に届け出る必要があります。届出内容に沿った支払いを行えば、その報酬を損金として算入できます。③業績連動給与上場企業で利用されている形態で、会社の業績に連動して金額が変動する役員報酬のことです。業績連動給与は、会社の業績と報酬を連動させることで、役員の業績向上意欲を高める効果があります。業績連動給与を損金として計上するには、「算出方法が明確で客観的であること」「有価証券報告書に記載し開示すること」「同族会社ではないこと」など一定の要件を満たす必要がありますので、事前に条件を確認し、計画的に支払うことが必要です。近年では、譲渡制限付株式(RS)などの株式報酬やストックオプションなど、多様な役員報酬の形態も増えています。これらは、役員のモチベーションを高め、会社の成長に貢献することを目的として導入されます。ちなみに、株式報酬は株価に連動して報酬が支払われるインセンティブ報酬の仕組みの1つで、ストックオプションは自社の株式を将来あらかじめ決められた価格で購入できる権利を付与する報酬制度です。これらの報酬制度は、役員の長期的な視点での経営参画を促し、企業価値の向上に貢献することが期待されます。役員報酬の変更に必要な手続き役員報酬の変更は、会社の経営戦略や税務に大きな影響を与えるため、慎重な検討と適切な手続きが求められます。特に、役員報酬を損金として計上するためには、法律で定められた手続きを遵守する必要があります。役員報酬の変更を決議する①定款または株主総会で変更を決める役員報酬は、原則として株主総会の普通決議によって決定されます。定款で役員報酬を定めることも可能ですが、その場合は定款の変更が必要となり、株主総会の特別決議を経る必要があります。特別決議は普通決議よりも要件が厳しいため、定款で定めず株主総会(普通決議)で決定することが一般的です。②定期同額で損金計上するには決議のタイミングが重要役員報酬を定期同額給与として損金計上するためには、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に株主総会で決定する必要があります。この期限を過ぎてしまうと、税務上の損金算入が認められない可能性があり、十分に注意が必要です。③議事録の作成、保管期間の義務(本店・支店)株主総会で役員報酬の変更を決議したら、その内容を議事録に記録し、適切に保管する必要があります。株主総会議事録の作成と保管期間は、会社法で定められています。本店では10年間、支店では5年間の保管義務があります。これは、会社の透明性を確保し、株主や債権者などの利害関係者を保護するための措置です。役員報酬変更ルールの例外役員報酬の例外的な決め方・配分方法株主総会では、各役員の報酬を個別に定めず、「役員報酬の総額」と「取締役会で役員間の報酬配分を決定すること」を決議し、取締役会で役員個人の報酬金額を決議するという方法も可能です。この方法を採用することで、会社の状況や役員の貢献度に応じて、柔軟に役員報酬を決定できます。役員報酬変更の株主総会議事録の書き方・ひな形株主総会議事録は、株主総会における重要な決定事項を記録した文書であり、会社の透明性を確保するために不可欠な書面です。特に、役員報酬の変更は株主の利益に大きく関わるため、正確な議事録の作成が求められます。議事録の記載事項は会社法で定められている株主総会議事録には、会社法によって記載すべき事項が定められています。これらの事項を正確に記載することで、議事録の法的有効性を確保し、将来的なトラブルを回避できます。①開催日時、開催場所議事録には、株主総会が開催された日時と場所を正確に記載する必要があります。これにより、いつ、どこでどのような議事が行われたのかを明確にします。例)○年○月○日○時○分から、当社本店の会議室において定時株主総会を開催した。②出席した役員の氏名、議長および議事録の作成者株主総会に出席した役員の氏名、議長、議事録作成者を記載します。これにより、誰がどのような立場で議事に参加したのかを明確にします。③議事内容および決議結果議事録には、株主総会で審議された内容と、その決議結果を詳細に記載します。役員報酬の変更に関する議案であれば、変更後の役員報酬の金額などを具体的に記載します。④出席株主の数、出席株主の議決権の数株主総会に出席した株主の数と、その議決権の数を記載します。これにより、株主総会の成立要件を満たしていること、議決が適切に行われたことを証明します。併せて、定足数を満たしていることを示すため、議決権を行使することができる株主数とその有する議決権数を記載することが一般的です。⑤株主総会議事録への押印について株主総会議事録への押印は、会社法上は義務付けられておりません。ただし、議事録の真正性を担保したり、トラブルを防止したりする目的で、実務上は押印することが推奨されます。また、「定款に定めがある場合」「取締役会がない会社で代表取締役を選任する場合」など、規定次第で押印が必要なケースもありますので、混同しないように注意が必要です。株主総会議事録のひな形・テンプレート上記の記載事項を反映したひな形が以下になりますので、書類作成にご参考ください。役員報酬変更の株主総会議事録のひな形(テンプレート)を無料でダウンロード「できれば自分で手続きしたい」「はじめての変更なので書類のイメージを掴みたい」そんな方のために、今すぐ使える役員報酬変更の株主総会議事録のテンプレートを用意しました。株主総会議事録は、会社の重要な記録であり、将来的なトラブルを回避するためにも正確な作成と適切な保管が求められますので、参考にしていただければ幸いです。参考リンク:役員報酬変更の株主総会議事録のテンプレート役員報酬の変更では規定・要件を把握しておくことが重要役員報酬は、会社の経営を担う役員にとって重要な収入源であると同時に、会社の経営戦略にも深く関わる要素です。特に、役員報酬を損金として計上するためには、定められた変更方法やタイミングを守ることが重要です。規定外の方法やタイミングで変更を行うと、損金計上できないなどのデメリットが発生します。また、株主総会で役員変更と役員報酬変更が同時に発生する場合など、手続き全体が複雑になるケースも考えられます。このような場合、手続きに不備があると、後々トラブルに発展する可能性があり注意が必要です。手続きが難しい場合や不安がある場合は、弁護士や税理士など法律の専門家への相談も有効です。GVA法律事務所は、主にITベンチャー・スタートアップ企業の創業からIPOまでの支援を行っています。アジアを中心に4か国の拠点も展開しており、グローバルなサービスも展開しています。また、Fintech、メディカル、AI・データ、Web3、宇宙など産業別のチームも組成しており、幅広い業種に対応した法務サービスも提供しています。各種法律相談について新規の方であれば、初回30分無料で法律相談を実施しております。お気軽にお問い合わせください。