会社の役員に就任や辞任などの変更が生じた場合、2週間以内に登記を行うことが法律で定められています。変更登記について「司法書士など専門家に依頼するしか方法がない」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は自分で変更登記を申請することも可能です。ただし、正確に書類を作成し、期限内に提出しなければならないため、手続きの進め方に不安を感じてしまうことも考えられます。本記事では、役員変更登記の基本的な知識から、自分で申請する際の具体的な手順、必要書類、かかる費用まで、実務に即して詳しく解説します。司法書士に依頼するか自分で行うか、適切な判断を行うための情報も併せて紹介していきます。役員変更の登記とは?会社経営において不可欠な役員変更とその登記について概要を説明していきます。役員変更とは?役員変更とは、取締役や監査役などの会社役員に関して生じた変更を登記簿に反映させる手続きです。登記簿謄本(登記事項証明書)には、役員の氏名、就任日、退任日などの重要事項が記載されており、会社の状況を公的に証明する役割があります。役員変更が発生する背景として、次のようなケースがあります。経営戦略に基づく定期的な役員改選M&Aに伴う経営体制の見直し親会社・グループ会社を含めた人事異動事業拡大や新規事業立ち上げに向けた体制強化不祥事や経営責任を背景とした進退会社の役員体制に変更が生じた場合、当該変更が生じた日から2週間以内に登記申請を行う必要があります。役員変更の登記に関する手続きについては、後半で詳しく解説します。役員変更の種類法人の役員変更には、おもに次の種類があります。就任:株主総会での選任決議により、新たに役員の地位に就くこと。新規事業や経営体制の強化などを目的に行われます。辞任:役員が任期途中で自主的に退任すること。健康上の理由や他社での就任、業績不振の責任などが背景となります。重任:任期満了時に同じ役員が再度就任すること。経営が安定している場合や、経営の継続性を重視する際に選択されます。退任:任期満了等により自動的に役員の地位を離れること。主に定款や法令で定められた任期が終了し、重任しない場合に生じます。解任:株主総会の決議により、強制的に役員の地位を解くこと。任務懈怠や不正行為など、重大な問題が生じた場合や、本人が辞任を受け入れない場合などに行われます。これらの役員変更は、会社の状況や経営方針に応じて選択されます。特に就任と重任は会社の成長や安定性を維持するために重要な選択肢となり、一方で辞任・退任・解任は、さまざまな理由で役員体制の見直しが必要な際に用いられます。役員変更登記を自分で申請することは可能役員変更の登記申請は、司法書士に依頼する方法と自分で申請する方法の2つの選択肢があります。一般的な役員変更、特に中小企業やスタートアップでの役員変更であれば、自身で書類を作成して申請することは十分に可能です。申請に必要な書類は法務局のウェブサイトでテンプレートが提供されており、これらを活用すれば手続きを進められます。株式会社の役員変更登記の流れ株式会社の役員変更登記の流れについて、具体的に解説します。大きく2つのステップで理解するとわかりやすくなります。ステップ1:社内での意思決定役員の変更には多くの場合、株主総会での決議が必要です。まず取締役会で株主総会の招集を決議し、その後開催される株主総会において正式に役員変更を決議します。株主総会での決議は会社にとって重要な決定事項であり、正しい手順で進める必要があります。ステップ2:法務局への登記申請株主総会での決議が完了したら、変更があった日から2週間以内に法務局へ登記申請を行う必要があります。登記申請書類を作成し、議事録などの必要書類を添付して法務局に提出します。期限内の申請は法的な義務となりますので、書類の準備は速やかに進める必要があります。①株主総会での役員変更の決議役員変更の種類や対象となる役員によって、必要な手続きが異なります。就任:株主総会決議(普通決議)が必要です。辞任:本人からの辞任届(辞任の意思表明)の提出が必要です。重任:任期満了に伴う株主総会決議(普通決議)が必要です。解任:一般の取締役の場合、株主総会決議(普通決議)が必要ですが、監査等委員の取締役や監査役の解任には株主総会の特別決議が必要となります。ここで、普通決議は議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の過半数の賛成で決議されます。一方、特別決議は、総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。いずれの場合も、決議の内容は必ず議事録として記録を残します。この議事録は、単なる社内記録としてだけでなく、登記申請時に必要な添付書類であるため、正確に作成しなければなりません。②登記申請書類を作成して法務局に提出する登記申請の手続きでは、以下の書類を準備して法務局へ提出します。登記申請書株主総会議事録辞任届や就任承諾書などの関連書類申請方法は、法務局への持参か郵送のいずれかを選択できます。必要な書類は役員変更の種類によって異なりますが、申請書類の作成にあたっては法務局が提供する登記申請書のひな形(テンプレート)を利用することができます。具体的な書式や記入例については、後ほど詳しく解説します。役員変更登記にかかる費用自分で申請する場合と司法書士に依頼する場合で異なる費用について、詳しく説明します。登記申請書類・必要書類の準備にかかる費用必要書類の準備にかかる費用は、準備方法によって異なります。自分で申請書類を準備する場合:法務局が提供しているひな形(テンプレート)を活用することで、書類作成自体の費用はかかりません。司法書士に依頼する場合:司法書士への報酬として、約3万円~5万円程度(※)の費用が必要となります。申請内容や地域によって多少の差はありますが、基本的にはこの範囲内での費用を見込んでおく必要があります。※出典:日本司法書士会連合会「司法書士への報酬に関するアンケート:第3 役員変更」登録免許税登録免許税は、役員変更登記の申請時に必要となる法定費用です。自分で申請する場合でも、司法書士に依頼する場合でも同額を法務局に納付しなければなりません。登録免許税の金額は次のとおりです。資本金1億円以下の会社:1万円資本金1億円超の会社:3万円なお、1回の申請で複数の役員変更(例:1名の退任と1名の就任)を行う場合でも、申請1件分の金額のみで済みます。納付方法には、登記申請書に収入印紙を貼付するか、インターネットバンキングを利用した電子納付があります。その他の雑費申請方法に応じて、次のような雑費が発生します。郵送で申請する場合:郵送料金法務局に持参する場合:交通費いずれの場合も数百円~数千円程度の費用を見込んでおけば十分です。これらの費用は登録免許税や司法書士への依頼費用と比べると少額です。そのため、登記にかかる費用を見積もる場合、司法書士への報酬がメインとなります。株式会社の役員変更登記の必要書類一覧変更の種類に応じた必要書類と、法務局のホームページでダウンロードできるひな形(テンプレート)を紹介します。役員変更登記の必要書類役員変更の種類や会社の機関設計によって、必要となる書類は異なります。変更の種類ごとに、おもな必要書類をまとめます。役員変更登記の必要書類変更の種類必要書類備考就任・登記申請書・株主総会議事録・取締役会議事録又は取締役決定書・株主リスト・就任承諾書・本人確認書類・印鑑証明書・印鑑届書・印鑑証明書は就任する役員のものだが、取締役会設置会社では省略可能な場合もある。・印鑑届書は代表取締役就任の場合のみ・取締役会議事録又は取締役決定書は、代表取締役選定の場合のみ辞任・登記申請書・辞任届・辞任届は辞任する役員の意思確認書類重任・登記申請書・株主総会議事録・株主リスト・就任承諾書退任・登記申請書・株主総会議事録・任期満了証明書類• 任期満了を証明する書類は定款や過去の登記事項証明書などで、株主総会議事録で確認できない場合に必要・死亡による退任の場合は死亡届解任・登記申請書・株主総会議事録・株主リスト※共通して必要な書類:登録免許税の納付を証明する収入印紙代理人が申請する場合は委任状役員変更の必要書類のひな形(テンプレート)をダウンロードする前述したように、役員変更の登記申請書は、そのテンプレートをダウンロードできます。ここでは、「取締役会設置会社で役員全員が重任する場合」と「辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合」のダウンロード先と記載例を紹介します。取締役会設置会社で役員全員が重任する場合取締役会設置会社で役員全員が重任する場合は、株式会社役員変更登記申請書に次のような事項を記載します。記載項目記入例備考会社法人等番号0000-00-000000半角数字とハイフンで記載わかる場合のみ記載商号○○商事株式会社-フリガナ○○ショウジ株式会社の部分は除く本店○県○市○町○丁目○番○号登記簿上の本店所在地を記載登記の事由取締役、代表取締役及び監査役の変更変更内容に応じて記載登録免許税金30,000円(または金10,000円)・資本金1億円超:30,000円・資本金1億円以下:10,000円申請時に提出する書類についても、各枚数とともに明記します。株主総会議事録:1通株主リスト(株主の氏名・住所・議決権数等を記載):1通取締役会議事録:1通就任承諾書:〇通 ※就任する役員の人数分委任状(代理人申請の場合):1通※ダウンロードリンク:記載例と申請書様式(word)辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合は、株式会社役員変更登記申請書に次のような事項を記載します。記載項目記入例備考会社法人等番号0000-00-000000半角数字とハイフンで記載わかる場合のみ記載商号○○商事株式会社-フリガナ○○ショウジ株式会社の部分は除く本店○県○市○町○丁目○番○号登記簿上の本店所在地を記載登記の事由取締役の変更変更内容に応じて記載登録免許税金30,000円(または金10,000円)・資本金1億円超:30,000円・資本金1億円以下:10,000円申請時に提出する書類についても、各枚数とともに明記します。辞任届(辞任の場合):○通死亡届又は法定相続情報一覧図の写し(死亡の場合):○通臨時株主総会議事録:1通株主リスト:1通就任承諾書:○通 ※就任する取締役の人数分印鑑証明書:○通 ※就任する取締役の人数分本人確認証明書:○通 ※必要な場合のみ委任状(代理人申請の場合):1通※ダウンロードリンク:記載例と申請書様式(word)役員変更登記を自分で申請することは可能だが注意も必要 会社の役員変更登記は、基本的な知識と正確な書類作成により、十分に自分で行うことができます。法務局などが提供するテンプレートを活用し、必要書類を適切に準備することで、3万円から5万円程度の司法書士費用を節約することも可能です。ただし、上場企業など規模の大きく機関が複雑な会社や申請期限が切迫しているケース、任期切れが発生しているケース等では、専門家への依頼を検討することをおすすめします。自社の状況や変更内容を確認し、必要に応じて司法書士に相談することで、確実な役員変更登記の実現が可能です。重要なのは、会社の実情に合った最適な方法を選択することです。