株式会社が新たな資金を調達するための手段として「増資(募集株式の発行)」があります。通常、増資は金銭の払い込みによって行われますが、金銭以外の財産を資本として組み入れる「現物出資」という方法も認められています。しかし、現物出資を行う場合、出資される財産の価値が適正であるかを担保するため、原則として裁判所に「検査役」の選任を申し立てる必要があります。この検査役の調査は、手続きが煩雑で時間も費用もかかるという大きなハードルがあります。実は、会社法では一定の条件を満たすことで、この検査役の調査を例外的に省略(免除)できるケースを定めています。スタートアップ企業や中小企業が現物出資を活用する際には、この例外規定に当てはめることが実務上のセオリーとなります。本記事では、スタートアップ支援の実績が豊富な会社法・法人登記の専門家が、現物出資の基本から、検査役の調査が不要になる5つの要件、具体的な手続きのポイントまでを詳細に解説します。現物出資の基礎知識現物出資とは、株式会社が増資(募集株式の発行)や会社設立を行う際に、金銭以外の財産をもって出資することを指します。出資できる財産には、動産(パソコン、自動車、機械設備など)、不動産(土地、建物)、有価証券(株式、社債)などがあり、貸借対照表に資産として計上できるものであれば幅広く認められます。現物出資のメリット現物出資の最大のメリットは、手元に十分な現金(キャッシュ)がなくても出資を行い、新しく株主になることができる点にあります。会社側にとっても、事業に必要な資産を直接獲得しながら自己資本を充実させることができるため、財務体質の強化に繋がります。現物出資の注意点(デメリット)一方で、現物出資には特有の難しさがあります。出資される財産の価値を客観的に評価することが難しく、厳格な法規制が敷かれているためです。また、出資財産の所有権移転手続き(不動産登記の移転や自動車の名義変更など)も別途発生するため、金銭出資と比較して手続きの工数が大幅に増加するという点には注意が必要です。会社法における現物出資の条文解釈現物出資に対して厳格な規制が設けられている根本的な理由は、現物出資財産が客観的な価値よりも高く(過大に)評価される「水増し」を防ぐことにあります。もし現物出資財産が過大評価されると、会社に実際に提供された財産価値に比べて、必要以上に多くの株式が発行されることになります。その結果、以下の2つの大きな問題が生じます。既存株主の利益の侵害:過大評価によって不当に多くの株式が発行されると、既存株主の持株比率や1株あたりの価値が希薄化し、不利益を被ります。会社債権者の利益の侵害:会社の債権者(取引先や金融機関)は、会社の資本金や純資産の額を信用して取引を行います。財産が水増しされていれば、会社が倒産した際に債権を回収できなくなるリスクが高まり、債権者の利益を害するおそれがあります。原則としての「検査役の調査」このような事態を防ぐため、会社法(第207条1項〜3項)では、現物出資を行う際には、原則として裁判所に対して「検査役」の選任を申し立て、検査役による財産の価額の調査を受けなければならないと定めています。裁判所が会社の定めた評価額を不当と認めた場合は、価額を変更する決定を下します。 しかし、この検査役の選任と調査には、裁判所への予納金が必要であり、期間も数ヶ月を要するため、実務上は非常に大きな負担となります。検査役の調査省略条件上記のように煩雑な手続きが必要な検査役の調査ですが、会社法では「既存株主や債権者への影響が少ない場合」や「客観的な価値が明らかであると考えられる場合」に限り、例外的に検査役の調査が不要(免除)となる5つのケースを定めています。1. 発行株式数の10分の1以下の場合(会社法207条9項1号)現物出資をする新しい株主に対して割り当てる株式の総数が、会社の発行済株式総数の10分の1を超えない場合です。 新しく発行される株式数が全体のごく一部であれば、仮に不当な現物出資が行われたとしても、既存株主や債権者に与える影響(ダメージ)は軽微であるため、検査役の調査が不要とされています。2. 出資財産の価額が500万円以下の場合(会社法207条9項2号現物出資財産について会社が定めた価額が500万円を超えない(500万円以下である)場合です。 金額が少額であれば会社財産へ及ぼす影響が限定的であるため免除されます。創業メンバー個人のパソコンや少額の機材などを現物出資して資本金に組み入れる際によく利用される、非常に使い勝手の良い規定です。3. 市場価格のある有価証券を出資する場合(会社法207条9項3号)上場会社の株式や社債など、市場価格のある有価証券を、その市場価格を超えない価額で出資する場合です。 上場株式等であれば、誰が見てもその客観的な価値(株価)が明らかであり、価額が不足するという事態が考えにくいため、検査役の調査は不要となります。4. 弁護士等の証明がある場合(会社法207条9項4号)現物出資財産について会社が定めた価額が相当であることについて、弁護士や公認会計士、税理士等の証明を受けた場合です。 非上場株式のように市場価格がない財産であっても、専門家からの証明があれば例外的に調査が不要となります。なお、出資財産が「不動産」の場合は、弁護士等の証明にあわせて「不動産鑑定士の鑑定評価」も必要となります。5. 会社に対する金銭債権を出資する場合(DES)(会社法207条9項5号)会社に対するすでに弁済期が到来した金銭債権を、その帳簿価額を超えない価額で出資する場合です。これは「デット・エクイティ・スワップ(DES:Debt Equity Swap)」と呼ばれます。 たとえば、社長が会社に貸し付けている借入金を現物出資して株式に振り替えるようなケースです。会社の帳簿に基づくもので客観的価値が明らかであり、過大評価のリスクがないため調査が免除されます。現物出資を用いた手続き現物出資を用いて増資を行う際の手続きの流れと、実務上のポイントを解説します。現物出資を検討する際は、まず上記の「検査役の調査が不要になる場合」に当てはまるかどうか(または、不要になるような範囲内で現物出資を行えるか)を真っ先に検討することが重要です。一般的に、裁判所を通した検査役の調査には多くの時間と手間がかかります。ビジネスのスピードを落とさないためには、500万円以下の少額出資に留めるか、DES(債権の株式化)を活用するのが最もスピーディです。もし、非上場株式の現物出資などで客観的価値が明確でない場合は、「弁護士等の証明」を受ける方法を選択するのが実務上のセオリーです。専門家への報酬は発生しますが、より早く現物出資を行うことができる大きなメリットがあります。事前のスケジュール調整として、弁護士等の証明を受けることを早めに検討すると手続きがスムーズに進みます。自分でスピーディに変更登記を申請するならGVA 法人登記ここまで増資における現物出資の仕組みを解説してきましたが、通常の金銭による増資や、役員変更、本店移転などの会社変更登記を行う際、コストと時間を大幅に削減できるサービスとして「GVA 法人登記」をご紹介します。※GVA 法人登記は現物出資非対応ですスピーディな登記申請においてGVA 法人登記を利用するメリット専門知識不要:画面の案内に従って変更情報をステップ入力するだけで、登記申請書や必要な添付書類が自動作成されます。士業との打ち合わせが不要:専門家に依頼する場合の見積もりや面談などのコミュニケーションコストが発生しません。自分の好きなタイミングで即座に作業を進められます。収入印紙もオンラインで購入可能:登記申請に必要な登録免許税(収入印紙)もセットで購入できるため、わざわざ郵便局に買いに行く手間が省けます。法務局に行く必要なし:「かんたん郵送パック」などのオプションを利用すれば、作成した書類に押印してポストに投函するだけで完了し、平日の日中に法務局へ足を運ぶ必要が一切なくなります。GVA 法人議事録で法人・会社の各種議事録テンプレートをダウンロード【無料】自分で登記申請をしようとした際、最もつまずきやすいのが「株主総会議事録」や「取締役会議事録」の正確な作成です。法務局の要件を満たしていないと修正を求められてしまいます。 GVA 法人議事録では、会社法に準拠した各種議事録のテンプレートを無料で提供しています。メールアドレスを登録するだけで、専門家監修の高品質なテンプレートを利用可能です。